のーとみ
@notomi
2025年3月14日

をんごく
北沢陶
読み終わった
北沢陶「をんごく」読んだ。最近、小説は500ページ超えの本ばっかり読んでるから、200ページ弱だと、中編小説読んだ感じだけど、その短かさも含めて、良い小説だったと思う。大正時代の大阪、船場と心斎橋を舞台に、泉鏡花の関西弁版みたいな風情で描かれるゴースト・ストーリー。ほんと文章が上手い。これがデビュー作って、上手い人は最初から上手いんだなあ。メインプロットは怪談噺だから、文章力次第みたいな物語で、文章とストーリーがぴったり合って、世界に入っていきやすい。主人公の生い立ちみたいな、私が苦手な部分もするする読めて、ちゃんと先が気になる。
関東大震災で大怪我を負った妻を連れて実家に戻った、家業を継がずに画家になった商家のボンが、妻の死後に見舞われる怪異に、死んだことを理解できず彷徨う霊を喰うことで生きながらえている存在を相棒に立ち向かうというのがあらすじだけど、物語は、画家は妻の死を受け入れることができるのかというのがメインテーマになってる。もう思いっきりオーソドックスな幽霊譚にバディとのバトルと謎解きを加えて、じっとりした大阪商人の執念と夫婦愛を描く訳で、それが面白く読めるんだから、文章力、構成力は相当凄い。だから本当に面白く読めるのだけど、個人的には、大絶賛とはいかないのは、欲張り過ぎか。
横溝正史ミステリ&ホラー大賞の大賞受賞作で、読者賞、カゥヨム読者賞も取った作品なので、巻末に受賞コメントや審査員の選評が入っていて、そこで有栖川有栖さん、道尾秀介さんが指摘してるように、もうひとつ大きなサブプロットがあったらなあと思うのだった。ちょっとバディもの展開に頼り過ぎなのも物足りなさに繋がる。二人の会話はもうちょいサラッとしてた方が面白かったと思うし、画家であること、関東大震災と大阪の商家独特の考え方なんかが、本筋ともっとリンクしてたら大傑作になったような気もする。展開がストレート過ぎて、ちょっとジャンプのマンガみたいなのがなあ。いや、十分面白いけど、ちょっと物語の歯車が噛み合いすぎるんだよー。
