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2026年3月12日

小説家の小説家論
安岡章太郎
《私は大正六年八月下旬に初めて上京した。かねがね東京は誘惑が多いと田舎できいていたが、そのころ私は誘惑というのは女と親密にすることだと思っていた。それ以外には誘惑の種類を考えることができなかった。私は早く誘惑されたいと考えて電車の停留場に一時間も立っていたことがある。しかし誰も私を誘惑してくれなかった。東京の街は人通りが多すぎ、顔見知りの人間は一人もいなかった。どの人を見ても、みんな知らない顔である。それで自分の気持はこんなに淋しいのではないかと思っていた》(「上京前後」昭和十一年)
ヤング鱒二の上京エピソード。




