のーとみ "感応グラン=ギニョル" 2025年3月5日

のーとみ
@notomi
2025年3月5日
感応グラン=ギニョル
空木春宵「感応グラン=ギニョル」読んだ。雑誌やアンソロジーで作品を読む度に、この第一短編集を読まねばと思いつつ、うかうかしてたら去年の暮というか先月、文庫になってしまって、もう、そんなに時間が経ってしまったのかと慌てて買って読んだ。大傑作。牧野修と皆川博子が合体して、乱歩と谷崎の意匠を借りて作った、正しい意味での和製サイバー・パンクが、ここにあった。または、特殊設定変格探偵小説としての現代ホラー。そして、全編、少女たちの怒りが世界を滅ぼしたり変容させたりする物語で、ハッピー・エンドはひとつもないのに、ものすごく読んでいて気持ちがいい。そう、SFって、どうやったら世界を滅ぼせるかを考える文学だったじゃん、と、思い出した。そういうのが読みたくて中学時代、夢中になってSFを追っかけたのだった。 表題作「感応グラン=ギニョル」で描かれる、濃厚な、乱歩というより谷崎潤一郎的な猥雑な浅草と、レジデンツ味のある見世物小屋の描写が、そのまま世界の崩壊の伏線になっている見事さと、ラストシーンでの少女の叫びのリアリティ。続く「地獄を縫い取る」の、サイバーパンク的VR世界と、地獄大夫と一休禅師とのやり取りを重ね合わせて、あらゆる嗜虐趣味の男女をまとめて地獄に堕とす企みの壮絶さ。牧野修「死んだ女は歩かない」を寓話に書き換えたような世界の中で、百合とBLを混沌化した恋愛と自己実現の果てを道成寺伝説に乗せた「メタモルフォシスの龍」。ゾンビは何故、人を食い、ゾンビ化させるのかに鮮やかな解答を提出した、意識のあるゾンビ物の最前線であり、凄まじい百合小説でもある「徒花物語」の構成の妙技。江戸川乱歩オマージュを、「感応グラン=ギニョル」の後日譚として描いた「Rampo Sicks」の、まるで紅蜥蜴=lizardが歌ったような未来の淺草六区で展開するルッキズム論と、それをぶち壊す少女の怒り。その少女の名前が不見世で、黒蜥蜴の物語をベースにあらゆる乱歩作品をギミックに使いながら、明智小五郎を否定している物語世界の勁さに震える。 で、これらの話がホラーとして描かれてるけど、ものすごく正統的にSFなのだ。しかも、ネットワークと演算機構が物語の中心にある。ITライターは、ちゃんと読んで欲しい。ちょうどギブソンの後期作品も全部電書になったから、サイバーパンクの現在を追う意味でも、その辺、まとめて読むのだ。ギブソンにとっての西部劇は、日本人にとっての明治探偵小説だったというのは発見だなあ。そしてアナログ・コンピューティング的なアイディアがあちこちにあって、そして全部ぶっ壊す。
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