スプーン
@spoooooooon
2026年3月17日
優しい暴力の時代
チョン・イヒョン,
斎藤真理子
読み終わった
『ずうっと、夏』
「何より、自由なのがよかったという。自由というのがどういう意味なのかは聞かなかった。だってもし聞いたら、あんたがいなかったってこと、とか言われそうで。」(p.109)
遠く飛ばした石を、またあの子が拾ってくれますように。
『アンナ』
「人間には人間が必要だ。恨むために、欲望するために、打ち明けるために。」(p.222)
「ママ、エナはどこにいるの?」
「エナが僕を守ってくれたんだよ。」
(p.234)
子どもはアンナの優しさを受け止めていた。この子どもが社会を知った時、彼はアンナを忘れているのか、それともアンナを思い出し、彼女が職場を追われた理由を推察し心を痛めるのか、気になった。
アンナの厚意はある他者から見たら「子どもに腐ったヨーグルトを食べさせる」暴力だった。アンナにとっては「数日の賞味期限は取るに足らない」ものだった。完璧な優しさに裏打ちされた行動なんて存在しない。それは他の人にとっては暴力だし、他の人にとっては優しさ。そして、その優しさも時間を経て記憶の中に封じ込められ、改変されていくのだろう。一つの行為は多層の解釈によって成り立つのだということを改めて認識する。
『優しい暴力の時代』 作家のことば
「礼儀正しく握手をするために手を握って離すと、手のひらが刃ですっと切られている。傷の形をじっと見ていると、誰もが自分の刃について考えるようになる。
そんな時代を生きていく、私によく似た彼らを理解するために努力するしかない。書くしかない。小説で世界を学んだのだから、私の道具はただそれだけだ。」(p.238)
読む、書く。このときが一番、わたしが他者に最も接近でき、同時に最も遠い存在であることを知る。この、最も近くなれるという可能性を忘れそうになる。誰かに何か伝えるとき、そこには他者がいなければいけない。