
和月
@wanotsuki
2026年3月16日
YABUNONAKA-ヤブノナカー
金原ひとみ
読み終わった
読書期間中、何度かこの作品に関連するような夢を見て魘された。性加害や性的搾取を中心的なテーマとする本作は、著者の熱量を感じさせる厚みのある本で、中身も非常に重厚且つ鋭い。本当にHPを削られるけど、この読書で脳の筋トレが出来た感覚もあり、読んでよかった。
読み終わってからいくつかYouTubeの動画で金原ひとみさんが本作について語っている動画をみた。登場人物の五松に対する言葉で、「生きることと加害性は切り離せない。」と話していた場面が印象に残った。
性的搾取の加害者として告発される50代男性の木戸は、告発文だけを現代の感性で受け取るとかなり酷い人物だ。しかし、彼の視点から物語が始まることによって、どことなく悪と言い切ることができない部分がある。
40代女性の長岡は、「悪のような正義感」を持つ人物として描かれる。その苛烈な正義は、正しさという暴力で相手を否定し、自分の理想とする世界から排除する。私は正直、正しさに基づく言動であるとしても、彼女の存在がいちばん怖かった。愛する娘すら不信を抱けば人間の皮を被った虚無だと罵倒する。揺らぎのない正義感に包まれた刃は、それが正当防衛だとしても、過剰に振るえば加害性を持つ。人は生きていく中で加害を及ぼす可能性を等しく持っている。被害者や傍観者も共にそのことに自覚を持たなければならない。そう考えさせられた。
また、優美の感情の爆発力も、横山の煩雑さが一切ないルーチンぶりも、伽耶の社会の枠組みから一旦外れることが出来る思い切りも無いけど、それでも彼等には特にシンパシーを感じた。ちょうど私自身が彼女達の狭間の年齢なのも、要因の一つなのかもしれない。
世代毎の思考が細やかに書き分けられており、自分とは別の世代の考え方を主体的に味わえる。なんでこの人はこんな古い考え方なんだろう?どうしてこの子は他者との対立にここまで回避的なんだろう?普段の日常でふと感じる疑念や年齢による断層を、なるほどその捉え方なら私にも当てはまるかもな、と思わせてくれる。どの人物にも全面的には賛同できない反面、全員にどこかしらで共感したくなる。
様々な年齢層の読者に対して各世代の思考や言動を示した上で、確かな説得力を感じさせてくれる作品だと感じた。
終始読んでいて苦しくなる場面が多かったけど、最後の視点には希望を持てた。他の読者の方で、越山恵斗は長岡友梨奈の悪のような正義を次世代に引き継ぐのではないか、と危惧する感想があった。確かに私もその片鱗は感じたが、彼の恋人が彼にとって良い軸となり隣に立っていてくれるのではないか、とも思う。
長岡と横山の関係性とは別ベクトルで、互いが互いを尊重して成長する2人として、この世界をサバイブしていってほしいと心から願う。





