

和月
@wanotsuki
マイペースに読みます📚
- 2026年7月8日
すべてが円くなるように原田マハ読み終わった真珠にまつわる短編集。 日本だけではなく、世界の様々な場所を舞台に物語が展開されていて、真珠だけでなく、情景描写にも魅了された。世界の美術に造詣の深い著者ならではの視点が素敵。色んな国に行ってみたくなる作品だった。 ずっとみてみたかった「真珠の耳飾りの少女」が展示される美術館のチケットの争奪戦に連敗中。そして、今月鳥羽の英虞湾近辺に観光予定。好きなアーティストがパールジュエリーで有名な日本企業のブランドパートナーに就任。 私事ながら、現況を踏まえると実にタイムリーな本で、読み進めていてすごく嬉しかった。 それに、元々真珠のまろやかな光沢のある美しさが好きだったので、読んでいてとても幸福な心持ちになった。 一生懸命に働く女性達の姿を様々な角度で描いている所も良かった。「あの日のエール」が特に好き。背中に手を添えて励まして貰ったような読後感があり、自分も毎日を頑張って生きようと思えた。 原田マハさんの作品を今回初めて読んだので、今積読してしまっている他の作品も、この熱が冷めないうちに近々読もうと決意した。 - 2026年7月7日
探偵小石は恋しない森バジル読み終わった完璧に引っかかった! 後半は特に、おみごと、と拍手したくなる本。 違和感のピースをたくさん拾い集めながら読んでいるのに、なかなか真相に辿り着けなくて、最後にはなるほど!と思わせてくれる。 いかに己が確率の高い方で文脈を読んでいるか自覚させられる。伏線はたくさん張られていて、読み返して真相を紐解くところまで二度楽しめる。 キャラクターも良い。 小石と蓮杖の軽快な掛け合いはザ凸凹探偵助手コンビのようで、4章以降の展開含めてすごく好きなバディ。プロローグが何を意味するのか考えながら読み進めていたけれど、その大枠の謎を一旦忘れるくらい章ごとの謎も面白い。 読みやすい文章、個性が際立ち想像しやすい登場人物達、明確に提示された犯行。読者が入り込みやすい舞台設定の中で、想定以上にしっかりとした真相に辿り着く軌跡が、とてもわくわくする読書体験となった。 続編が9月刊行とのことで、本当に楽しみ! - 2026年7月4日
最後の晩餐井上荒野,原田ひ香,寺地はるな,江國香織,藤野千夜,角田光代,金原ひとみ読み終わったどの話も全部面白かった! アンソロジーって思わぬ出会いを楽しむ読み物だと思っていて、それはつまり自分には刺さらない作品も含む覚悟が必要な本。 だけど、今回はそれぞれの著者の作風含めてどれも味わい深く、全て好ましかった。 「最後の晩餐」をテーマに、様々な年代、場所で登場人物達が食に思いを馳せる。 江國香織氏、金原ひとみ氏、角田光代氏と続き、もうこの時点でそれぞれの書き癖というか、特徴がこれでもかと出ていて大好き。 寺地はるなさん原田ひ香さんは今回初めて読んだけど、他の著作も読みたくなる面白さだった。 後に続くお2人も短編とは思えない重厚さがある物語で、本当に素晴らしかった。 全ての作品を通して読んで、色々な食べ物小説を楽しむのも良し、その時々の気分で読みたい作家の文章を選ぶのも良し。「最後」と名のつく主題でも、どのお話も食と結びついているからか、読んでいると前向きな気持ちなれる。 私にとっての最後の晩餐はなんだろう。一緒に読み終わった人達と語り合いたくなるような、そんな作品だった。 どれも良かったけど、昔読んで印象に残っていたルート225の藤野千夜さんと再びめぐり逢えたことがとても嬉しい。 - 2026年7月3日
劇場という名の星座小川洋子読み終わった心の調律をしているような心地がした。 光も影も生も死も、全てを包み込む劇場と、その空間を愛している人々の物語。 現実の色々な疲弊をやわらかく解きほぐしてくれるような短編集だった。 帝国劇場で観劇したことは無いけれど、ミュージカルや舞台を観に行く時の特別感や、公演中の没入感は本当に大好き。そういう観客目線でのお話もあれば、舞台の裏で働く縁の下の力持ち達を描くお話もあり、劇場という空間を様々な角度から愛でることが出来る一冊。 私は特に、全編通して迷子の少年が好き。 実話に基づくエピソードが殆どだと思うけど、著者の文章によってどこか神秘的なヴェールを纏う所も素敵。エレベーター係や着到板の名入れ係、幸運の椅子を見守る売店の人等、ほんとうに?と聞き返したくなる仕事の数々。それらに誠実に従事する彼らの姿はとてもあたたかい。 場所は違えど読み終わると観劇がより一層楽しみになる。私もいつか、新しく生まれ変わった帝国劇場を訪れてみたい。 - 2026年7月1日
さよならジャバウォック伊坂幸太郎読み終わった実は初めて読む伊坂幸太郎作品。ずっと読みたい作家リストにいたけどようやく読めた! ちょっとファンタジックなミステリーで面白い。タイトルの通り、アリスの世界を想起させるような不可思議な空気が作中に終始漂っている。 この違和感は何?どういう真相なの?と霧をかき分けるように読み進める感覚がとても楽しかった。 そうきたか!と思わず天を仰ぐ物語というよりは、成程それなら合点がいくな、というお話。最後まで読んでもう一度読み直すと見えてくる世界がまた変わる気がする。 作品内で「人間程温厚で残忍な存在は他にいない」という言葉が出てくる。人間という生物について、温厚さを理性、残忍さを本能とする見方もあるかもしれない。しかし、本作が伝えたいことはそうした性悪説とは異なるように感じられた。 人間の理性によって押さえつけられている部分が物語の核となり、その情動が爆発する終盤は読み応え抜群。 少し近未来的な世界観ながら、人間を人間たらしめるものとは何か?という現実に即したテーマについて考えさせられる作品だった。 次は敢えて初期作のオーデュボンを読んでみたい。 - 2026年6月29日
粉瘤息子都落ち択更地郊読み終わったえー……まさかこんなに面白いとは……という予想を遥かに上回る読後感で嬉しい。 上半期ベスト最大の番狂わせかもしれない。 どういうあらすじの本ですか?と聞かれても、絶対この面白さを十分に伝えられない気がする。 とにかく読んで!と言いたくなる本。令和の文学を読んだなぁ、という新鮮な気持ちになる。 言語センスや主体の思考を落とし込む文の連なり、一定速度で進み続けるのに突然ギアがかかったりする緩急の付け方、全てがエキサイティング。楽しい。 漫才と純文学と若者のSNSコミュニケーションを良い感じにMIXしたような、何とも形容し難い面白さに溢れている。 例えば 「エクセル人間になる適合手術にも失敗して、一年目が終わる頃には会社という独裁国家でエクセル部族による村八分を食らっていた。」 この何とも奇天烈な物言いでありながら、意味はきちんと伝わってくる文の癖が良い。普段生きていて思い浮かばない言葉達がぽんぽん飛び出てくる所が面白いのかもしれない。 また、登場人物達の温度感が終始一定なのも新鮮。喜怒哀楽の生温さというか、壮絶な地獄エピソードも小躍りしたくなる出来事も、若干眉を寄せて気まずい空気を漂わせつつ何となく有耶無耶になる。このさじ加減が絶妙で、分かりやすさの対極にあるような感情の起伏が読んでいてとても好ましい。 そんなに明るく楽しい話でも無いのに、何故か青春小説を読んでいるような爽快感、軽やかさに包まれている作品。聴きたくなる曲、やりたくなるゲーム、行きたくなるレストラン、買いたくなる飲料。何故か読み終えてちょっとだけ元気をもらえる。すっごく良かったので著者の次回作も大大大期待! - 2026年6月27日
イン・ザ・メガチャーチ朝井リョウ読み終わった大前提、全ての本に読む意義はある。 しかし、今を生きる書店で働く人々が「読んで欲しい本(物語)」として本作を選んだことの意義について深く考えさせられて、納得できる作品だった。 『正欲』、『生殖記』、そして『イン・ザ・メガチャーチ』。著者が本屋大賞のスピーチで、これらの三作は生きる推進力を描いていると話していた所が印象に残っている。たしかに、社会構造や集団の中の個について凄まじい解像度で言語化した作品だなぁという感想は共通している。 行動の先に得た答えや幸せな結末から提示される希望ではなく、波紋のように広がる現象や大衆の社会構造を描く。 原動力ではなく推進力を主題に置くという小説の作り方が、作品群の生々しく目が離せなくなる魅力を生み出しているように感じた。 作中では何度か「味噌」がシグネチャーとして表れてきて、それぞれの違いが面白い。特に3つの味噌玉を溶かす場面と味噌餡のくだりが良かった。個人的には国見さんの何にも属さない、あるいは属せない性質が好きだった。 作中に登場する中年男性の寄る辺なさは読んでいて非常に辛い。 自分がしてこなかったことが、取り返しのつかない結果として引き返せない年齢になって還ってくる。だが、この先寿命まで生きるとなれば、結果を受け止め続ける時間があまりにも長すぎる。 その虚無感の中から動き出して彼が迎える結末は何とも形容し難い。しかし、物語によってもたらされた変化は443頁を読む限り、そう悪くない部分もあったのかもしれないと思えた。 本作には「推し活にのめりこんでいく人」と「推し活にのめりこんでいた人」も登場する。 主体となって描かれている2人は、現実的に考えるとかなり極端な人物像だ。ど、どうして……と思わず顔を覆いたくなる展開も多々ある。 けれど、その異常なまでの振り切れ方、自分自身を使い切る熱量が、2人を別側面の苦痛から救ってくれる。 パラケルススの「すべての物質は毒であり、量こそが毒か薬かを決める」という格言を思い出した。誰かを信仰すること、何かと自分をリンクさせて支持すること。その行為自体は用法用量さえ守れば、心を前向きに保つ特効薬になり得る。 信者気質のファンがいなければビジネスとして成り立たない部分があると言われれば反論の余地は無いが、防衛手段として己の視野狭窄を達観できる時間を設ける必要はあると感じた。 元の気質も深く影響しているとはいえ、自他境界が曖昧になる瞬間は誰にでもある。彼女達が余裕のない状況から「物語」にのめり込んでいく姿は、身につまされる思いがした。 自戒の意味も込めて、時折読み返したい作品になった。 全編通して付箋をつけたい!マーカーを引きたい!と思うような言葉が多数あったが、特に印象に残った言葉。 「全ての角度からの審判を俯瞰できるまで視野を拡げることは、誰とも何とも連帯できないほどこの世界から遠く離れることと同義だからだ。」 人間は他者との繋がりや連帯でしか解消できない孤独を抱える生物だ。 同時に、他者に攻撃されることに対してひどく敏感で、攻撃されない為にも孤立することを厭う。 たった1つの正解が無くなり多様化した世界で、その孤独を埋めるコミュニティやストーリーが権威を持つという構造。作中では極端な人達を主軸にそれらを描いているが、その風刺は確かに現代の私達に当て嵌る。 決して読み心地の良いハッピーなお話でないのに、ここまで多くの反響があるのは、そうした写実的クオリティの高さが要因の一つだと思う。 そして、資本とファンダムが密接に絡み合う、ある意味絶望的な構造主義を描ききった上で、その構造の中に身を投じる人々を「眩しい」と言ってのける眼差しが、この物語を一際輝かせているのだと感じた。 - 2026年6月25日
ありか瀬尾まいこ読み終わったあたたかい日差しを浴びた時のような、やわらかい希望をもたらしてくれる物語。 子ども達の健やかな幸せを真摯に願う大人たちが沢山出てきて、読んでいて心が穏やかになる。 美空や颯斗達はそれぞれ子どもの頃に色々な傷を負っていて、その苦しみを経たからこそ、ひかりや次の世代の子どもたちの未来を守ろうとする。自分の娘を育てていく中で自分と母の関係性を見つめ直して、周囲の人々との出会いを通して段々と成長する主人公の姿がじっくりと描写されている。 母との確執が描かれる場面は心がざわざわするけれど、美空の周りは皆優しく親切な人が多くて、彼らとの日常の描写は柔らかい読み心地に浸れる。大人たちの真っ直ぐな慈しみの中で成長するひかりの愛らしさもまた、物語の魅力。ランドセルを選んだ理由の場面が本当に可愛かった。 ここでは描かれていない子育ての苦労は計り知れない程あるだろうけど、それでも、ひかりがいなければ生きる理由がないと考える美空の母としての愛に胸打たれた。実際に親になってみてはじめて分かることも多いだろうけど、もし私が次世代の人を育てる立場になるとすれば、美空や颯斗みたいな存在になりたいと思う。 他の方の感想で気付いたのだけど、全ページ数が366ページで、春夏秋冬の章立て含め作品そのものが光と美空と颯斗の一年を表しているように思えるのも素敵。 最後まで、優しくあたたかい物語だった。 - 2026年6月23日
ハレー彗星の館の殺人 老令嬢探偵の事件簿ロス・モンゴメリ,村山美雪読み終わったかなり面白かった! 嫌われ者の老令嬢と少年院帰りの従僕が館で起きた殺人事件の謎を解明していく。 20世紀初頭の英国が舞台であり、ハレー彗星が地球に到達する日、孤島の閉鎖空間で事件が起こる。舞台の設定から既にわくわくさせられる。 王道なクローズドサークルものであり、屋敷内を蠢く多様な人間関係を描いた物語でもある。 泣き虫メイドや忠実な執事長、お喋りな家政婦や科学かぶれの主人等、個性豊かな登場人物達も見どころ。何より、頭脳明晰だが本当に口の悪いミス・デシマと彼女の手足となり捜査にお世話に奔走するスティーブンのタッグは、読んでいてとても面白い。ホームズ&ワトソンとはまた少し違ったテイストで、彼女達の犯人探しを楽しめる。 著者が元々児童向け作品を書いていた影響か、文章や表現が分かりやすく、海外作品にありがちな言葉の引っ掛かりを感じない所も良い。 翻訳の力も多分にあるとは思うが、お屋敷の断面図や子爵家の相関図等も細かく掲載されていて、全方面に分かりやすい設計。 段々と明らかになっていくトリックも説得力があり、客観的事実に基づき推理していくので、置いていかれることなく一緒に謎を解くことが出来る。正直、真相に近いところまで推理が出来たので心地よかった。 あとがきによると、シリーズ続編の執筆も予定しているとのこと。邦訳でまた2人の謎解きを読める日が来ることを願ってやまない。 - 2026年6月19日
読み終わった大島の章から俄然引き込まれる。面白かった! 棋士の世界で苦悩する芝と、棋士になる道を諦めて弁護士として働く大島。別のベクトルで苦しむ2人のごちゃ混ぜになった感情と共に、奨励会や将棋の世界の壮絶さが描かれる。 前半はうだつが上がらない芝のプロ棋士としての生活が描かれる。将棋界にあまり触れたことがない身としては、ギリギリのラインで努力しつつぬるっと現実逃避する芝にそれでいいのか……!と思ってしまう。 しかし、棋士である限りほぼ永久的に将棋と向き合い続けなければならない世界というのは、こちら側からは想像を絶する程の茨道なのだとも感じた。 芝視点の時は現実と夢の狭間が曖昧だったり、感情が流動的な文章で表されていて、純文学寄りの作品なのかな?と感じたけど、大島視点はかなり大衆文学的。かなり読みやすく、弁護士の仕事の部分は別の物語のようで楽しめた。 芝の章では、良い友人であり割り切った考え方ができる大人として登場した大島が、今も尚プロ棋士を諦めたことを引き摺り、嫉妬と憧憬と憐憫の入り交じった眼差しで芝と相対している所がかなり良かった。タイトルが双方向に伏線回収されるのも秀逸。 ラストは意外にも軽やかというか、希望がある気がして好ましい。文庫化を機に書き下ろしとかあったりしないかな。もう少し2人の会話が読みたいような気がする反面、彼らの絶妙なヒリつきはここまでで十分満足な気もする。 とにかく、表紙のパンチ力を裏切らない火力の高い作品だった! - 2026年6月18日
読み終わった3巻も相変わらず面白くて一気読み! 今回は学園生活から一転して無人島でのサバイバル臨海合宿。 その前に次巻予告から楽しみにしていた伊織と椿のデート回が読めて冒頭からかなり満足度が高かった。椿の鈍感ウブというか、回避能力の高さにやきもきさせられることが多く、マリス様とのやり取りを読む度にある種の諦念を抱いてしまうものの、やっぱり個人的には伊織に報われて欲しい……。他の登場人物も巻を追う毎に好きになっているので、全員が幸せな方向に進んでいってほしい。 臨界合宿は何気ない描写の中に伏線が色々と散りばめられていて、島の描写がかなり細やかなのが良い。夏の学生もの定番ともいえる肝試しや水着云々のくだりもあって、おいしい夏イベントてんこ盛り回だった。 4巻は夏の帰省と兄弟喧嘩がメインになりそうで、次も楽しみ! - 2026年6月16日
ピザトーストをひとりで食べる加藤千恵読み終わった食と恋愛の短編+短歌集。 恋愛といっても、甘酸っぱく純粋な恋!というよりは、苦くて引きずるような色恋が描かれている。 まあまあ男も女も一癖あるというか、決して綺麗とは言えない恋情を抱えていて、読んでいるとざらざらした感情が残る。 普段、そこまで他者に対して溺れたり制御不能な感情を抱けないので、全く別のタイプの人を人間観察しているみたいで面白かった。 1番好きな話は豆乳めんつゆそうめんで、次点がかぼちゃのクッキー。 - 2026年6月14日
わすれなぐさ吉屋信子読み終わった大好きな世界観。 女の子達の間の倒錯的な友情を描いていて、王道の少女小説をたっぷり味わえる。 学生時代、尾崎翠を研究していたので、同じ少女雑誌で連載していた同い年の2人が対照的な作風であること含めて面白かった。 他者からの好意に疎い鈍感主人公・牧子、美しく奔放なファム・ファタール・陽子、硬派で家族思いの実直な少女・一枝。三者三様の彼女達が女学校で繰り広げる三角関係が、何とも読み応えがある。 解説でも語られているが、蠱惑的な魅力に溢れた陽子の一挙手一投足に目が離せなくなる。意図的に意地悪をしたり、自己顕示欲で動く典型的なワガママ女王ではなく、動機が一貫して牧子への執着である所が良い。牧子の翻弄されっぷりには正直突っ込みたくなる時もあるが、陽子の魅力を踏まえると抗いがたい気持ちはよく分かる。 他方で、一枝の潔癖さ、清廉さもとても美しく、実は心の奥では深い情を抱えている所も好ましい。陽子が薔薇だとすれば、一枝は白百合のような存在だと感じた。 そんな大輪の薔薇のような陽子を象徴する香りが「勿忘草(花言葉:わたしを忘れないで)」なのが本当に素敵。場所が変われば相手に縋るようなニュアンスに捉えることができる言葉が、陽子の手にかかれば相手を翻弄させる妖しさを纏う。 物語の終盤になると、また違った想いをのせた香りとして、牧子や一枝の元に香ってくる所含めて素晴らしい。 タイトルの秀逸さも合わさって、とても良い作品だった。 - 2026年6月13日
明日、あたらしい歌をうたう角田光代読み終わったなんて素敵な物語なんだろう。 作品全体に歌が、音楽が溢れていて、人生を進めるために背中を押してくれる。苦しみに苛まれた時も、喜びに心踊る時も、傍には音にのせた言葉が居る。 角田光代さんは本作について、「自分がなぜここに生まれてきて、なぜ生きているのかわからない人たちが、あるとき、生きるにあたいする世界と出会う。これはそんな物語です。」と語っている。 実際に音楽によって救われたことのある著者だからこそ、単に音楽を題材にした青春小説ではなく、ずっしりと響く輝きを宿した作品が生み出されているのだと感じた。 作中に登場する歌詞は忌野清志郎さんの曲だと知り、本を読み終えてから彼の曲を調べた。真っ直ぐに愛を歌う映像をみていると、はじめて聴いたのにすごく心に沁みた。コメント欄には件のアーティストに救われた人達で溢れていて、その言葉の数々は、くすか達が抱いた希望と同じ形をしているように感じられた。 終盤、過去・現在・未来が交錯するシーンは、この作品を読んだ読者に希望を与えてくれている気がする。他者に対して愛を持つことの喜びも苦しみもまざまざと描かれていて、新やくすかの心情が細やかに表現されている文章が胸を打つ。 今が灰色だったとしても、人生を変える何かに出会える日がきっと来る。その「いつか」に向かって生きていきたいと思わせてくれる。読み終えた時には、表紙の花々が身体の内側で咲いている。人間讃歌の物語だった。 - 2026年6月12日
殺し屋の営業術野宮有読み終わった前々から読みたかった本! あらすじから予想していた以上に血腥いクライムノベルで、裏社会の頭脳戦が面白かった。 設定含めてかなり漫画化や映像化ができそうな印象。畳みかけるような物語のスピード感と、どんでん返しのコンフィデンスゲームから目が離せない。 作中人物が主人公の鳥井含めて異常者ばかりで構成されているからか、犯罪の内容や営業手法はリアリティがあるのに、一定距離のあるフィクションとして作品を楽しめるのも心地よい。カンピロバクターとかで死なないで良かった……。 質の高いエンタメ小説だったので、続編もとても楽しみ! - 2026年6月9日
三十路の逆立ちくどうれいん読み終わった湯気を食べるに引き続き、今年2冊目のくどうれいんさんのエッセイ。今回は食べ物縛りではなかったものの、やはり読みやすい文章でするする読めた。 文章の中の著者の家族や友人が、素敵だなーいいなー!と素直に思える為人の人物ばかり。でもきっと、くどうれいんさんの愛に満ちた眼差しを通して言語化されてこそ、総じて登場する人達に好感が持てるのだと思う。 私も、私の周囲の大切な人たちをそういうあたたかく優しい表現で言い表せる人間になりたい。 読んだ後に、一緒にお昼ご飯を食べていた人達がドラム式洗濯機を絶賛して布教しており、さっき読んだ!と思わず笑ってしまった。 日常にある話題をユーモアたっぷりに言葉にしてくれているから、詩的な表現を用いる歌人としてのくどうさんと出会う割合と、歳の近い友達のような存在として出会う割合が半々くらい。 そのさじ加減がこのエッセイの魅力だと思う。 - 2026年6月7日
月とコーヒー吉田篤弘読み終わったちびりちびりと珈琲を飲む時みたいに、少しずつ味わいながら読んだ。 3年前、本を読むためのホテルで選書サービスを利用した時、オススメされた本だった。結局一晩では読めず、いつかきちんと読もうと思っていて今になってしまったけれど、再会できて良かった。 一般的な起承転結でいうと「…承転け……」みたいなお話が多くて、そこが好き。 素朴だけど誠意のこもった不思議な食べ物がそこかしこに登場して、どれもとっても美味しそう。私は特にたまごのケーキが食べたい! 生きていくために必要な「太陽とパン」よりも、日常を繰り返していくためにあってほしい「月とコーヒー」を描きたい。あとがきを読んで、本書のタイトルの付け方含めて素敵だなぁと感じた。 真ん中でキラキラと光り輝いたり、声高に主義主張を訴えてくる文章も面白いけど、時にはポッと小さく暗闇を照らしてくれる蝋燭のような物語に心を委ねたい。そんな気分の時にぴったりの本。 - 2026年6月6日
信仰村田沙耶香読み終わった現時点、名刺代わりの小説10選はなんですか?という問いに答える場面があれば確実に挙げる作品。 コンビニ人間面白かったし、短編で読みやすそうだし読んでみよ〜と気軽に手に取ったら年間ベストどころかここ数十年で出会ってよかった本ベストに入りそうでビックリ。 こういう突然雷に撃たれるような出会いがあるから、読書って止められない。 自分の中に根付いた常識や正解という強い概念、圧力、枠組みをがたがた揺さぶられて、それが痛気持ちいい。 村田沙耶香さんが描く世界や存在の、無機質でシステマチックな人間臭さが好き。冷たいやさしさが愛おしくなる。 どのお話、エッセイも心に響いたけれど、「彼らの惑星へ帰っていくこと」は心底読めてよかった。 この言葉たちと出会わずに一生を終えなくて、本当に良かった。私も私の「宇宙人」との時間を大切にしたい。 心や体に浸透する文章が多すぎて、感想を言葉で表現することが難しい。例えば、洗脳ではない!と声高に主張するその言動が洗脳ではないと何故言い切れるのか?とか。私が私に刃を向けて、傷つけて、殺して、宥めて、抱きしめてあげる。均一と混沌が同居する「私」を、好きでいてくれる友人達を愛すること。 全部の言葉が、踏むと血が出る硝子の破片であり、宝物のかけらだった。 何度も読み直したいし、私の人生に刻みたい作品。 - 2026年6月4日
ふつうの人が小説家として生活していくには津村記久子読み終わったさくさく読めて面白かった! 津村記久子さんの関西弁が、音に乗って聞こえてくるような軽快さで楽しい。聞き手の島田さんは津村さんと同世代だからか、お互いの好きな音楽や本の話もテンポよく会話が進む。2人の話すコンテンツを全然知らなくても何か楽しそうだな、聴いてみたいな、と思えてくる文章。 タイトル通り、小説家としての生活を送るまでのルーツや習慣についても細やかに語られていて、「小説を書く人」が別世界の人間ではなく、私達読者と地続きの存在であることに気付かされる。 継続する力と他者に流されず興味のあるものを深堀りする探究心。この2つをしっかりと携えて生活をすれば、小説では無くても何かは生み出せる。そんな気持ちにさせてくれる一冊だった。 好きだった一文 「生来はなにかとか才能とかの話をしてない。でも、行動はできるでしょう。いい人間になれなくても、いい行動は取れるでしょということ。」 個人的に、本を読む人・書く人は行動よりも思考型というか、色々と細かく考える性質の人が多いように感じている。まず動くことから始めてみる、という津村さんの方針は前述の偏見から大きく外れていて新鮮だった。 感情に左右される優しさよりも、規範に基づいて親切に振る舞えることを倫理的だと話す著者の考え方は、さっぱりとしていて湿度がなく好ましい。 津村記久子さんの作品をもっと読んでみたくなったし、作中でオススメされていたティモシー・スナイダーの『暴政』は、読みたい作品リストに追加した。多方面でタメになる作品だった。 - 2026年6月3日
BOXBOXBOXBOX坂本湾読み終わった霧のたちこめる宅配所で働く作業員たちの物語。 靄がかった空間と、レーンにひたすら流れてくる無数の箱、淡々と仕分けをする人々。作品全体が無機質な気配に包まれているが、時折ふつふつと積もり続けた感情が爆発したかのような濃い描写が表れる。だがその場面も流動的で、再び霧の中で見えなくなる。 なんとも形容し難い閉鎖的な世界が息苦しく、読んでいると新鮮な空気が欲しくなる。 読書でハッピーになりたい!みたいな気分の時にはオススメできないが、感情の煮凝りを文学的に浴びたい時は是非読んでみてほしい。 人間が単純作業の肉体労働を続ける中で、視野狭窄になり、段々と生活や感情の歯車が狂っていく様子が丁寧に描かれている。 結末含め面白かった。
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