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和月
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@wanotsuki
マイペースに読みます📚
  • 2026年5月25日
    雪のしおり 冬のアンソロジー
    あえて夏のはじめに読んでみる。清涼感が得られるかも?という実験的読書。冬の冷たさがとても遠く、どこか非現実に感じられてこれはこれで面白い読み方だった。 古今東西、様々な作家が描く冬の情景。雪に彩られた世界は眩いけれどどこか孤独な気がする。 その先にある春に思いを馳せたり、秋の終わりを感じたり、あたたかさとの暫しの別れやあたたかいものへの希求する心を綴った作品が多くて良かった。 心に残った一文 「二月はものの凍る月、寒さの頂点の月、思いは自然、あたたかいものへ傾くのである。」 幸田文さんの作品は今回初めて読んだ。とても素敵な文章で、柔らかい物の見方をする方。アンソロジーでは無かったら出会えなかった作家さんだったので、とても嬉しい。 小池昌代さんの百人一首に対する現代詩役、鑑賞の言葉も素晴らしくて、他の歌に対しての文も読みたくなった。 アンソロジーって、全員の作品が自分の好みに合うとは限らないけれど、宝探しみたいなワクワク感がある。好きな作家目当てで読み始めたはずが、思わぬ出会いが待っていることもあって、そこが面白い。 たくさんの美味しいつまみ食いが出来た一冊でした。
  • 2026年5月24日
    アナヅラさま
    アナヅラさま
    ホラーっぽい表紙とタイトルだけどこのミスで賞をとってるからミステリーなんだ〜と読み始めた。読了後の所感としてはちょうど中間のジャンルだった。 主人公を筆頭にキャラの個性がしっかり立っていて、探偵事務所の面々に魅力を感じたからこそ、シリーズ化が難しい物語だったのが口惜しい。3人でドタバタと探偵稼業に明け暮れてほしいなぁという願望を抱いてしまった。 アナヅラさま視点に切り替わる場面が序盤からあるので、犯人の存在を明示した上でお話が進むのが新鮮で面白かった。 文体が軽快というか、かなり現代的な言葉遣いを用いて書かれているので、さくさくと読める。ラノベを読んでいる時に似た感覚。重厚な探偵小説では無いが、昨今流行りのホラー要素を盛り込みつつ、人間の二面性について鋭く切り込んだ作品で楽しめた。 デビュー作とのことで、良い意味で粗さを感じられる。次回作も期待。
  • 2026年5月20日
    お守り短歌アンソロジー わかれる
    他の方の感想を読んでいると、心に響く短歌や歌人が分散していて、お守りになる言葉は人それぞれ異なるんだなあと感じた。 五七五七七の限られた言葉、「わかれる」というひとつのテーマに絞っていても、全然違う世界が展開されているのが素敵。 私は特に、木下龍也さんの「チープカシオ」と谷川電話さんの「風の複製」が好き。 別れの質感は全く異なるけれど、お二人が痛みと共生する姿勢や、傷をなぞってその思い出を振り返る感覚がとても良かった。 各歌人のあとがきも必見。私が言葉に出来なかった思考を言語化してくれたようにも感じるし、全く思いつかなかった感覚を深く静謐な眼差しで言葉にしてくれている。 どれも読んでいて味わい深く、全員の他の作品集も読んでみたくなった。 特に好きだった歌 「釣り針のような六画目のせいでのみこめもはきだせもしない死」
  • 2026年5月19日
    コンビニ人間
    コンビニ人間
    「人間」の持つ気持ち悪さと「人間に似た生き物」の持つ薄気味悪さを両方感じさせてくれる作品。面白かった。 主人公は周囲から奇妙がられる存在で、多くの人間が抱く道徳や善悪の感覚を持ち合わせていない。彼女は彼女なりの思考で行動するが、社会のコミュニティでは普通ではないと判断される。その結果、他者を観察して動きを模倣して、社会と迎合する人物になりきる、コンビニ店員の古倉恵子が生まれる。社会の正常な部品。普通に擬態する術を身につけた主人公は、働く自分の姿をそう表する。彼女ほどでは無いにしても、ありのままの自分では過ごせない場面も多々ある。赤ん坊だって両親の模倣をして育っていくことを考えると、主人公の行動はある種、社会に属する人間の一側面をデフォルメしているのではないか?と感じた。 個性を削ぎ落とさなければムラから排除される、という同調圧力の強い環境で、主人公が苦悩するという設定はよくある。一旦は社会に溶け込んだように見えても、月日が流れることで歯車が合わなくなり、平穏な日常が崩壊していく様は王道のストーリー展開だ。 しかし本作の最大の魅力は、そこからまた一捻りあるラストに向かう所なのだ。社会と遮断されない為の役割が、生きる意味だと気付く。手段が目的に形を変える。個性と社会の乖離に苦悩する人間が別の動物に生まれ変わる。この羽化に至るまでの描写が、この物語の真骨頂だと感じた。
  • 2026年5月18日
    100分間で楽しむ名作小説 夜市
    夜市がずっと読みたくて見つけて手に取ったのだけど、風の古道は含まれていないことに後で気付いた。もう一作は今度絶対読もう……。この薄暗く妖しくどこか美しい世界観、本当に素敵。115頁の短編だけど、20年前に書かれた作品とは思えない彩りを感じる。少しも古びた感じがしない。主人公と行動を共にするいずみの考え方や言葉がとても好きだった。彼女の存在が、物語全体を重くしすぎず、軽やかさを生んでいるように思う。 好きな言葉 「あなたの周りがゴミでできていたからといって、世界の全てがゴミでできているとは限らないでしょ」
  • 2026年5月18日
    ハヤディール戀記(下)
    下巻も無事読了。上巻に比べるとミステリよりはファンタジーに雰囲気が寄った印象。黒幕が結構分かりやすかったが、その分真相を知りたい焦燥感でページをめくる手が止まらなかった。 残忍で卑劣な事件の描写が読んでいてかなり辛かった。その分、どうか彼らが報われて欲しい……という気持ちのままに読み進めたので、最後まで読んで天を仰いだ。 ファンタジーの世界観の中で、王国の歴史を辿る物語としては読み応えがあり面白いし、冒頭にある「長く語り継がれている騎士と巫女の恋物語」という言葉を鑑みると結末にも納得がいく。 ただ、やはり大人向けファンタジーということもあり、どこかほろ苦い読み心地だった。 最後まで好きなキャラクターはリルとカルヴァでした。
  • 2026年5月15日
    I
    I
    Nに引き続き本の作り自体に仕掛けが潜んでいる本作。 事前に殺すルートか救うルートか分かった上で選択する形かと思っていたので、どっちか分からない状況で選ぶことになり悩みに悩んだ。 結論、私は救うルートになったけど、前半の苦しいパートのどうしようもない連鎖が好きすぎて、殺すルートの方が個人的には刺さったかもしれない……。著者はこの作品をどっちから書き始めているんだろう。気になる。 逆で読んだ時にどうなるか想像しながら読み進めていたので没入感は薄かったけど、上手いことお話を作るなぁと感動した。叙述トリック的な要素もあり、そこが特に好き。物の見事に騙された! 救うルートであれ完璧なハッピーエンドとはかなり異なるテイスト。物語としてはバタフライエフェクトを端々に感じさせる作品で、その反面、読む順番を変えると全く別のドミノ倒しが始まる所が、読書体験としても非常に面白かった。
  • 2026年5月12日
    ハヤディール戀記(上)
    町田さんの新境地、王道ファンタジー! 夜空に泳ぐチョコレートグラミーを読んで以来の作品で、わくわくしながら読んだ。 ラブロマンス要素もあるが、ミステリ要素がかなり面白く、上巻の後半からは謎を追う主人公の姿にぐいぐい惹き込まれた。意外と血腥い描写もあり、凄惨な事件の真相が下巻でどう展開していくのか楽しみ。 時系列の切り替わりが多めなので、最初の方は入り込むのに時間がかかった。でも、シリアスな話の流れの中で時折挟まる過去の思い出が心を和ませてくれる。 リルが好きで感情移入する余り、エスタとリルファンのロマンスにそこまで心寄せられなかった部分はあるけど、2人が笑顔で再会できたら良いな……。
  • 2026年5月11日
    魔法律学校の麗人執事 2 ブラッディ・バトル
    1に引き続き面白かったー!!勿体ないと思いつつ先が気になってページをめくる手が止まらなかった。The王道のラブコメファンタジーが気持ち良い。 スミレちゃんがこんなに可愛い存在になるとは思ってなくて最高。椿の無意識王子様ムーブも読んでいてたまらないし、かと思えば伊織やマリスにときめくシーンはとても可愛くて……今回も美味しいところを詰め合わせセットになっていてよかった。 椿の出生の秘密も徐々に明らかになりそうで、続刊も楽しみ!
  • 2026年5月9日
    1+1(ワンプラスワン)
    食べ物と飲み物、人と人とのペアリングについての24の短編集。冒頭には美味しそうな料理のイラスト集もあり、目の保養だった。 これ食べたい!となるグルメ小説というより、自分にとって特別な人と味わう食事って良いよなぁとしみじみ思わせてくれる作品。意外な組合せも色々と登場するので、実際に試してみたくなる。甘党かつ紅茶党なので、ミントティーと羊羹、ラプサンスーチョンとダイジェスティブビスケット、阿里山金萱茶とパイナップルケーキは近々食べ合わせてみたい! お話として好きだったのは〆鯖とズブロッカ、ふきのとうのフリットとレッドアイ。大切な存在との思い出は、時に苦しく悲しい別れと混じりあってしまうこともある。それでも、楽しかった記憶は過去に囚われるためではなく、前に進むためにある。そう思わせてくれる物語だった。
  • 2026年5月8日
    神の蝶、舞う果て
    神の蝶、舞う果て
    上橋さんの物語は、一度本の世界に入り込むとそのまま抜け出せなくなるような没入感があり、本当に大好き。獣の奏者は確実に人格形成を担ったシリーズの1つだし、香君も寝食忘れて読み耽った大好きな作品。 そんな上橋さんの原点回帰の本作。著者特有の細やかな情景描写や設定もさることながら、『神の蝶、舞う果て』以降の作品に通じる要素も感じさせる展開が複数あり、物語達の萌芽や創作の軌跡を辿る喜びに満ちている。 主人公・ジェードの人物像も、荒削りな若さが瑞々しくて好ましい。相棒のルクランとの関係性や、今後の彼らの世界の行方をもっと読みたくなった。 本作含め、上橋さんの作品を読んでいると人間の視点だけでは測れない世界の美しさ、恐ろしさ、偉大さについて気付かされる。ご本人は寡作と仰られているけれど、その一冊一冊の素晴らしい重みを噛み締めながら、何度も読み返したいと思う。
  • 2026年5月6日
    寝ながら学べる構造主義
    寝転んで新書を読むと大体眠気に負けがちなんだけど、この本はタイトル通り寝ながら学べてしっかり面白かった! 名前は聞いたことあるソシュールやフーコー、ラカン等の思想家が提唱した、構造主義の起源となる考え方を、例え話を混じえて分かりやすく説明してくれる。なるほど……となる部分もあれば、ちょっと読み直さないと理解が難しいかな?となる部分もあるけど、一貫して読んでいても飽きない所が良い。まずここから入って、気になった人物の著作を参考文献から探って読んでみる第一歩として最適な一冊だった。 本書を読んでいて、過去に尾崎翠作品を研究している時にフロイトについて興味を持ったことを思い出したので、これを機に『精神分析入門』を読んでみたい。
  • 2026年5月3日
    眠れない夜のために
    雨が降り止まない夜のお供に選んだ一冊。 眠れない夜に寄り添うお守りのような本。 西淑さんのイラストと千早茜さんの言葉で紡がれる掌編は、様々な夜を過ごす存在を美しく静かに描いている。 私は、ついこの前まで不眠と縁のない人生を歩んでいて硬い床の上でも熟睡できる人間だった。横になって目を瞑り、いつまでも意識を手放せない焦りに悩まされて初めて、不眠の辛さが身に染みた。眠れない人に対して安易な助言をしていた己の言動を反省した。 そんな訳で、第三夜「水のいきもの」は一等お気に入り。息が苦しくなる水の底でも、一緒に泳いでくれる存在がいれば何だか大丈夫な気がしてくる。明けない夜はない、という言葉の通り希望が感じられるラストが良かった。 第七夜「夜の王」もとっても良かった。彼のお茶目さわんぱくさが溢れていて、でもしっかりお姫様のことを思い出してくれる愛情深い所が可愛かった。朝にはめちゃくちゃ叱られるんだろうな……。 どのお話も夜の情景が素敵で、不安定で怖い一面も宿しているのに、何処か嫌いになれない魅力があった。 昼間とは異なる顔をした沢山の夜たち、或いは夜に眠れない人たちが、別の存在と連帯したり夜の向こうにある光に目を向けて、歩を進める。ひとりぼっちで長い夜を過ごしている読者が、ひとりじゃないと思える。そんな本の世界が広がっていて心地良かった。
  • 2026年5月3日
    ハンチバック
    ハンチバック
    あらすじも何も調べずに何となく手に取って読み始めた。読んでいる間ずっとガンガン殴られる、沸々と煮えたぎる怒りを感じる作品。 朝井リョウさんの『正欲』を読んだ時も感じたけど、自分が知ろうとしない、あるいは意識せず排除している世界の一部を真正面からぶつけられると、己を省みて恥ずかしくなる。この恥ずかしいという感情すら、その世界の一部の当事者に自分はなり得ないことを前提に思考している。 社会では「相互理解」「多様性」とマイノリティとマジョリティを結びつける言葉を積極的に打ち出すけど、実際には自分が体験していないことを真摯に理解することは難しい。中途半端な理解や同情、共感の暴力性について考えさせられる。 人間が何に目を向けて物を考えるのかは当人の自己都合によるものが大半で、この人間の利己的な本質をコタツ記事の本文や田中、最後に登場する人物の描写が表現しているように感じられた。 また、読書バリアフリーについてはこの作品を通して知ることが多く、如何に自分が紙の本を読む上で恵まれた条件かを思い知った。芥川賞受賞スピーチで市川さんが語られていた言葉も併せて読み、私自身が加害者の1人であることを受け止める必要があると感じた。
  • 2026年5月2日
    幽民奇聞
    幽民奇聞
    すごい良かった!!ずっと気になっていた恒川光太郎さんの作品。読みやすくて面白くてもっとこの作家の作品を知りたくなった。 民俗学×謎解き×オカルト×歴史要素が絶妙な配分でミックスされていて、物語にしっかりと奥行きを感じさせる。 「キ」という謎の存在を追いかける過程は終始幻想的な雰囲気が漂うが、同時に史実に基づいて幕末から明治までの世相が描かれており、その精密な設定が作品をより面白くしている。 読後感も良く、最後の風景は目に浮かぶようだった。奇を衒う面白さというより、これが読みたかったんだよなぁと期待に応えてくれる王道な読み心地。 個人的には、本作原案の怪奇幻想要素を含んだ推理ゲームとかあったらやりたいな〜!と思った。攻略していくと「キ」になる条件や作中人物の裏エピソードが分かり実績解除されていくとか、めっちゃ面白そう。 人間の惨さや醜さを描くと共に、その悪を断じる存在を描く。そして文明開化の中で血に塗れた歴史が過去になると同時に、対抗する存在もまた幽かなものへと変容していく。この諸行無常・盛者必衰の理を、希望ある形で作品に宿している所がとても良かった。
  • 2026年4月30日
    IDOL
    IDOL
    アイドル×SFとか好きの二乗じゃん!となり手に取った本。町屋良平さんの作品を今回初めて読んだ。想定していた感じでは無いけど、新しい感覚の物語だった。 本の内容以前にかなり個性のある文体でびっくりした!村上春樹や森見登美彦等、作家独自の筆致はこれまでも何度か遭遇したけれど、正直今まででいちばん癖を感じるかも。 句読点の振り方に対する違和感はあるし、「〜していて、」を必ず「〜してい、」とする所、時々ひらがなが混ざる所もかなり斬新。 でも、AIや未来人、タイムトラベルの話が多分に含まれる本作では、まあこういう文章もあるかも?という風に納得できた。 結構読み進めるのに苦労はしたけど、ラストの双子の展開はとても好き。最後にはアイドルの持つ輝きや暴力性に思いを馳せつつ、やっぱりステージ上の彼らを応援するのって良いよなぁと感じられた。何より、完走できてよかった!と思えたので満足。
  • 2026年4月28日
    野の花と小人たちハンディー版
    元々安野さんの絵が好きで、立川の安野光雅展でお花の絵をもっとじっくりみたい!と思い、本書を購入。展示されていたヒガンバナの絵と共に書かれていた文章にハッとさせられて、本を持ち帰っている時もずっと心に残っていた。 改めて眺めてみると、旅の絵本とはまた全然違うタッチのイラストで新鮮。安野さんの幼少期から画家になるまでの間に出会った数々の野花を紹介している。葉や花や実の間から無邪気に顔を覗かせる小人が可愛らしくて、和やかな心地になる。一方で、絵と共に紡がれる文章は深く、時に現実の厳しさを帯びていて心に響く。 整えられ飾られた花とは異なる自然本来の雑然とした美しさ、侘しさの中に潜む煌めきが随所に描かれていて、とても良かった。 私が目の前の仕事や日常の些事に追われて何も感じずに通り過ぎている道にも、同じように野花達は咲いているのかもしれない。お花屋さんで買った調えられた美しい花は愛でていても、そうした自然の楚々とした美を見過ごしている自覚があり、己の偏った美意識が少し恥ずかしくなった。 以下、心に残った文章の抜粋。あとがきの代わりの野草傷心は全て何度も読みたいと思う言葉で溢れているので、忘れたくない。 「人間のいるところばかりが世界ではない。山の中も、道のそばも、人間があらためて意識しないどんな小さな部分にも、自然は息づいて、目を見はるような世界をくりひろげているのである。」
  • 2026年4月27日
    魔法律学校の麗人執事 1 ウェルカム・トゥー・マジックローアカデミー
    一日で読み切ってしまい、現在2巻が手元に無いのでとてももどかしい思いをしています。早く続きが読みたい……! 花ざかりの君たちへ、桜蘭高校ホスト部、花より男子辺りを通ってきた人は読んでみて!!という少女漫画脳な気持ちと、あの新川帆立先生が手掛けるラノベなので一般小説畑の人も心置きなく手に取って!という感情が同時に押し寄せる。 恋と魔法と学園生活、という分かりやすいキラキラしたパッケージの中に、結構ガッツリ法律、契約、社会の縮図、ジェンダー等の話を盛り込んでいる。勿論、主人公・野々宮椿と周囲の人間関係もしっかりと細やかに描かれていて、深みがある。 正直、最初にオーディブルで冒頭を聴いていた時は、椿の好きな人への尽くし方にこの子大丈夫か……?と不安になったけど、本で読み進めているとその性格が根付いた理由や、心の機微が感じられて俄然好ましい人物になった。 人物設定だけを先行して見ると、俺様気質な条ヶ崎マリスやミステリアスな高遠伊織はよくある恋愛小説のヒーロー像かな?と思い込んでしまうけど、ページを追うごとに彼等の葛藤や様々な側面が見えてきて、面白い。知れば知るほど、彼らが単純なキャラクターではなく、人間としての立体感を持ち始める。まだ1巻では深堀りされていないほかの人物たちの活躍も楽しみ!
  • 2026年4月24日
    PRIZE-プライズー
    面白い!そして作品の推進力がすごい! 太宰治の『駆込み訴え』を読んだ時の、息をもつかせぬ狂気と渇望の気迫を思い出した。あの感覚が好きな人はめちゃくちゃ楽しめると思う。 直木賞を絶対に獲りたい作家の話。担当編集者の視点から物語が始まり、喜怒哀楽の激しい作家に振り回されながら賞レースに挑む展開なのかな……と読み始めると段々雲行きが怪しくなっていく。これってなんかヤバくないか?と読者が徐々に不安になりだしても、作家と編集者の二人三脚は止まらない。直近で読んだ本の影響もあり、途中からは宗教に盲信していく信者はこんな感じなのかもと思った。そして終盤、とどめの一撃をくらった時は思わず天を仰いだ。 加速度的に結び付きを深くしていく欲望と、膨らみすぎたそれが弾け飛ぶ瞬間。想定していても尚、くらくらする読書体験だった。 また、出版業界の様々なネタが仕込まれているのも面白い。新人作家が勘違いしやすい所等は想像しやすいけど、大物になってくるとそこまで経費で落とせるんだ?!みたいな驚きもある。ここまでお金の動きを赤裸々に描写した作品もあまり無いだろうな、と思う。芥川賞直木賞の審査方法についても細かく書かれていて、面白かった。オール讀物の編集長や直木賞の審査員には、確実にこの人がモデルだろうなというキャラクターもいて、調べて読むと一層楽しい。 天羽カインの存在も本当に魅力的だ。彼女はただ厄介な人ではなく、認められたい、褒められたいという衝動に突き動かされてしまう女性。読者想いのサービス精神旺盛な作家であると同時に、アダルトチルドレン的な要素も併せ持つ人。その危うさや純粋さ故に周囲に畏怖されたり心酔させたりしてしまう。この絶妙な人物が中心の物語だからこそ、惹き込まれるのだと思う。 天羽の他に編集者達の視点も交えて話が進む中、一つの会話に対してそれぞれの受け取り方が全く異なる場面がいくつかある。何気なく放った言葉が悪意として受け取られたり、意味のある叱責が虫の居所が悪いと捉えられたりする。こうした対人関係における相互理解の難しさが、とてもリアルな描写で心に残った。 時折そっと玄関に置かれた新鮮な野菜を食べながら、軽井沢の自宅で執筆に勤しんでいる天羽カインの姿がありありと目に浮かぶ。 欲望って言い換えると生きるパワーで、作家としての欲望に邁進する彼女の姿には元気をもらえる。ちょっと食らうところもありつつ、出会えて良かったと思える作品だった。 (追記) 本屋大賞ノミネート記念の「PRIZE PRESS」に載っている石田三成の連載コラム(実話)が本当に抱腹絶倒なので、本作を読み終えた人は是非とも読んでください!!!
  • 2026年4月22日
    暁星
    暁星
    ※ネタバレを含む感想です。 物語の構成が素晴らしくて、読み終えた途端にもう一度読み直したくなる作品だった! 世間より遅れて、2026年本屋大賞ノミネート作品を全作読んでみようと思い立ち、まず手に取った1作目。初っ端から大傑作に出会ってしまった。 前半と後半で2人の主軸となる人物の半生が異なる形態で描かれていく。読み手は、前半の文章が「手記」と題されることで、書き手の赤裸々な真実が語られると思い込んで読み始める。そのバイアスを逆手に取り、継ぎ接ぎで思い描いていた人物像を、後半の「小説」で一気に塗り替えていく展開が非常に気持ちよかった。その上、更に最後の数行でひっくり返される。正直、「宗教二世」というシリアスなテーマでここまで気持ちの良い読書体験を味わえるとは想像もしていなかった。 もちろん、心地よいと言える描写ばかりではない。むしろかなり苦しく、辛い暗闇のような展開の連続だ。家族や文学といった、彼らにとって切り離せない存在にべっとりと染み付く宗教の存在が、酷く怖い。 著者である湊かなえさんのインタビュー記事によると、作中に登場する宗教は作品を執筆するにあたって一から創造したとのこと。言葉の力を教義に含む宗教とは、文学に関心がある身からすると空恐ろしい。実際に存在していたら、私自身何らかの形で知らぬ間に関わっていてもおかしくない。地獄のような実態を理解した頃には、何かを人質に取られて抜け出せない穴に引き摺り込まれる。 親族が常軌を逸した形で宗教に傾倒した時、そこに生まれる苦しみは、この作品を読んで始めて真剣に考えるようになった気がする。当事者とは比べものにならないとはいえ、報道だけでは想像できない部分があることに気付くことができた。 宗教が生む苦しみを描く一方で、人は簡単に他者を排除する生き物だという事実を描いている場面も印象に残った。暁が「ゾンビ」と称する存在、金星のクラスメイト、愛光教会とは無関係な彼等は、その実教団とさして変わらない。自分とは違う種に嫌悪感を抱き、仲間を増やし、邪魔者を排除する。結局多くの人間はどんな環境であろうと、自分以外の誰かが犠牲となる光景を見て、自分は大丈夫だと確認して安堵する。あるいは、自分が犠牲にならない為に他者を除け者にする。そうして弾かれた人々ははじめから無かったもののように扱われて、どこにも助けを求めることが出来ない。残酷で正確な描写だと感じた。 ただ、絶望一色ではないのが物語の良い点だ。暁の弟や叔父叔母夫妻、金星の担当編集、2人にとっての互いの存在、彼らは真っ暗な闇の中に光る星のように、たしかに輝いている。その一つ一つの存在が、人間も捨てたもんじゃないなと思わせてくれる。 『夜明け前が一番暗い。だが必ず日は昇る。そこには輝く星がある。』 闇をひたすらに歩き続ける日々が続いたとしても、その先でいつか出会える暁星があると信じて、人生を歩んでいこう。そう思わせてくれる、大切な一冊になった。
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