

和月
@wanotsuki
マイペースに読みます📚
- 2026年10月6日
余命一週間の探偵としてホリー・ジャクソン,服部京子読み終わった面白かった〜〜!!! 著者の翻訳された作品、今のところ全て特大ホームランでドンピシャに好きなので、本作もずっと楽しみにしていた。むしろ読んで終わってしまうのが勿体なくて少し寝かせてたくらい。 今までのYA(ヤングアダルト)作品とは違い、今回は一般書扱いらしい。ただ、読みやすさや軽快な文章は変わらず、600ページ超の長編ながらぐいぐい読めた。 主要人物の年齢層も上がっているが、『自由研究には向かない殺人』の主人公の延長線上にいそうなタフで皮肉屋な性格のジェットが好ましい。 相棒&幼馴染のビリーは好きにならずにはいられない人物像。主軸はあくまでフーダニットだが、2人の軽やかな掛け合いのおかげで、失われた青春を取り戻しているような気配が漂う。そこが何とも好ましい。 本作は、余命一週間の中で自分を殺した犯人を見つけ出す、という冒頭から始まる。 「どうせ死ぬから」を合言葉にフルスロットルで捜査を始めるジェットの猛進加減が面白い。同時に、容赦なく迫るタイムリミットが彼女の身体を襲い始める描写が過酷で、それを献身的に支えるビリーの姿含めて非常に辛い。 複数の意味で心拍数が上がる中読み進めていくと、周囲の抱える秘密が徐々に暴かれていく。 この秘密の切れ味が凄まじく、残酷で、悲しい。ひとまず前作の『夜明けまでに誰かが』の中盤〜終盤を乗り越えた人ならこの物語も読み進められると思う。ホリー・ジャクソンの描く“人間の業”が好きな方は是非とも読んで欲しい。 肝心のフーダニットの部分に関しては、正直著者がこれまで作り出してきた「地獄」のファンなので、メタ的に考えてこの人では?と最初から怪しんでおり結果的中。とはいえ、そこに迫るまでの過程や真相がかなり精密に練られていた為、途中で弛れることなく楽しめた。 本書は終始、絶妙なさじ加減で「人を愛すこと、人に愛されること」が生み出す甘みと苦味が行き交う。どうしてそんなことに……と頭を抱えたくなる展開が、行き過ぎた愛やすれ違う愛によって起こる。しかし一方で、絶望で真っ暗になった道に光を灯すのも愛なのだ。 当初読み終えた時はラストの衝撃に打ちのめされたが、今改めて読み返して著者の言葉が沁みる。正に「素晴らしき哉、人生!」的展開だ。 ジェットの精神的救済、ビリーの精神的成長を描いた、とても心に残る愛の物語だった。 - 2026年10月3日
多類婚姻譚凪良ゆう読み終わったとても良かった! 痛烈に刺さる言葉があり、どうしてわかるの?と思わず問いかけたくなる場面もある。 現代の「婚姻」という契約制度が、従来の型から段々と変容しているようにも思えた。良い側面も悪い側面もあり、人と公的に結びつく関係が必ずしも幸せなのか、結びつかないことは不幸なのか、といった事を複数の視点で考えさせられる。 貧富の差や性的志向、価値観の違いによって「結婚」は千差万別だ。多様性が謳われる世界且つ資本主義社会である現代では、一昔前よりも更に細分化されている。 某雑誌の広告では「結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私はあなたと結婚したいのです」と語る。果たしてそうだろうか?結婚でしか幸せになる術が見出せない層もいるかもしれない。或いは、結婚したいあなたといることで将来的に幸せが遠のくことも、あるのかもしれない。 日本は特に、昔から「幸福」が一義的な傾向にある。【良い大学を出て安定した就職をして結婚して出産して育児をして仕事も長く働き続けて、老後は悠々自適に暮らす。この一本道をシアワセと定義します。】 今はそれを大声で言う人は少ないが、これを標準とする風潮の中で育った人達が親になり、その子供が親となって、無意識下で培われてきた常識は、やがて思考の楔となる。 私達が別の道を歩きたいと考えた時に苦しむのも、一本道を歩けなくなった時に絶望するのも、旧来の一義的幸福が原因なのだと思う。 本書は、その「普通の幸せ」の中の結婚に焦点を当てて、個人の幸福と大多数が考える正解は必ずしも比例しないことを描く。綿密で丁寧な言語化によって表現されており、読んでいて本当に息が苦しくなる場面もあった。作中の彼彼女たちと私が生きている世界の繋がりを切に感じた。 特に印象に残っているのが「Beautiful Dreamer」と「Position Talk」。前者では被害者意識、後者では加害者意識を持って強く共感した。実家が太い人間に対する嫉妬と僅かな侮蔑意識、貧困に相応しい思考しか抱けない己への自己嫌悪が入り混じる感覚。性別を一括りに過剰に批判して、その上で悲しみや怒りの感情論を用いて相手を加害者に仕立て上げる卑劣さ。両方読んでいて胸が痛くなった。人は生きている限り、被害者であり加害者である。それを頭の片隅において、生きていきたい。 5つの短編全て、マジョリティの正解に辿り着く物語では無い。「Beautiful Dreamer」はある種その側面を持つが、正解でいることの難しさや、世間の正解をなぞることへの空虚な感覚が押し出されているように感じる。どの主人公も、人との摩擦や衝突の末、自分が掲げる幸福に向かって進む姿が描かれていて、苦しいのにどこか希望をもてる所が好ましかった。 【普通に安心して幸せに生きていたいし、それを誰かと補い合える関係が欲しい。その結び付きを公的にするものが結婚しかない。それがしんどい。】 私がずっと「結婚」という契約に感じていたモヤモヤを、言葉にしてくれたことが純粋に嬉しい。読めてよかった。 - 2026年10月1日
しろとくろの偏愛千早茜読み終わったお餅もチョコも好きで、なんならお茶もかなり好き。あまりにも私が求めていた食エッセイで最高だった……!!! タイトルの通り「偏愛」がたっぷり詰め込めれた一冊。まだ食べたことのない物は素晴らしく美味しそうだし、食べたことがある物も著者が語ると一段と魅力的に感じられる。 次百貨店に行く時に必ず買おうと読みながら沢山メモした。 チョコに合わせる飲み物の回がとても好き。 鉄瓶とショコラの喩えがすごくロマンティックでときめいた。 お餅に関しては、お雑煮以外は断然甘い餅派閥だったけど、千早さんの文章に魅了されたので磯辺餅や納豆餅も食べてみようと思う。 『眠れない夜のために』の油彩画がとても素敵で1枚1枚眼福だったので、今回も西淑さんが挿絵担当で幸せ。お餅のやわらかく伸びるもちもちした質感、チョコレートの蠱惑的でほろ苦く甘い味わい、それぞれのイラストに詰め込まれている。 表紙も含めて、面陳したくなる作品だった。 秋冬になるとお餅やチョコレートを食べたい欲が増してくるので、このタイミングで読むことが出来てとても嬉しい! 『わるい食べもの』シリーズも気になっていたけど読めていなかったので、今後読んでいきたい。 - 2026年9月30日
はいつくばってミランダ・ジュライ,岸本佐知子読み終わった凡人が鮮烈な現代アートをみた時の気持ち。 分厚い長編小説だがミランダ・ジュライと岸本佐知子のタッグが素晴らしくて、溢れ出すユーモアと文章の上手さによってぐいぐい読める。 ただし、すっごく現代アート。本当に。 正直主人公の「わたし」との心の距離が果てしなく遠くて、彼女の倫理観を受け入れるのが困難だった。読み終えた後でも、作中に登場する彼女達の赤裸々で奔放な主義主張は理解できない部分が多い。 ミッドライフクライシスに直面した女性のお話。性的な行為や話題に対してアグレッシブな人々が主体となる為、終始未知との遭遇だった。 「中年の危機」といえば、疲労感や不眠、仕事に対するモチベーションの低下、無気力感等が主題になる印象だったので、まず真ん中に「性欲」が置かれる所がかなり新鮮だった。第1章のバスルームでの場面はかなり倒錯的で、この描写を書ききった著者のパワーに圧倒された。 結構何度も「この人達は何なんだ?」の気持ちに襲われたし、100%素晴らしい!と褒め称える感覚はまだ分からない。しかし、時折現れる言葉のきらめきも確かにある。 読み手の私が歳を重ねるにつれて、この物語が救いになるのかもしれない。 またいつか、読み直そう。 - 2026年9月27日
帰れない探偵柴崎友香読み終わったどういう話?と問われたら、表題のまま、帰れない探偵の話としか答えられない気がする。 現実と空想の隙間に在る物語。 知っている国のようで、何かが違う。「帰ることが出来ない」という条件下では、終始根無し草のような感覚が付きまとう。 主人公の「わたし」が転々と抽象的な街を移動する様を読んでいると、読者である私達も「帰れない」を追体験することが出来る。何処にも所属しない存在だからこそ、その場所の違和感や特徴に対して敏感になる。 探偵が主体ではあるが推理小説ではなく、「わたし」の日常・仕事風景を辿っていくお話。 想定していた作品とは違っていたが、ポール・オースターの『ガラスの街』を読んだ時のように次第に惹き込まれていった。 細やかなディテールが数多く登場する。架空の国々はどこかをモデルにしているのだろうな、と感じられる節があるので、調べてから読み直すのも一興。著者のインタビュー記事を読むと、取り入れられているドラマ等を知ることが出来て面白かった。 本作は、枠組みがきっちりと描かれている明快な作品では無い。曖昧な視点の中で、見えている物や感じている事、各々が持つ記憶は異なり、多角的な場所が生まれる。そこで過ごした時間はやがて過去と未来に繋がっていく。 ふわふわとした読み心地だからこそ、一度読むだけでは分からない場面が沢山ある。それでも、分からないままで置いておきたくなる。 またふとした時に読み返したら新しい発見があるかもしれない。そう感じられる作品だった。 音楽が特徴的な物語でもあるので、次はその時々に合わせた音楽をかけながらゆっくりと読み直したい。 - 2026年9月26日
略歴石垣りん読み終わったスっと懐の奥深くに差し込まれる言葉の芯の強さに心を揺さぶられた。すごくすごく好き。 戦前から戦後まで、14歳から勤め人として働き、沢山の家族や友人を見送ってきた詩人の紡ぐ言葉のひとつひとつが、とても重たく深い。 それでいて、透き通るように瑞々しい眼差しと表現が作品に溢れている。何度も繰り返し読み直したくなる詩ばかりで、生きる苦しみと生き抜く力強さが真摯に描かれている。 人が生きていく中でついた傷や汚れを、そのままの形で、書ききっている。絶望を誠実に描きながらも、どこか闘志のような心が節々に感じられて、本当に素晴らしい。 石垣りんさんという詩人に出会えた人生になり、心底嬉しい。 特に好きだな……としみじみと感じたのは、朝のパン、洗たく物、鬼籍、新年の食卓、夏の本、木、水、夕鶴、女。 選びきれない程どの詩も良かった。 とびきり美しい世界でも、悲壮に満ちた世界でもなく、私が生きている世界の地続きに著者は生きていたのだと感じる。 お守りにしたい詩集だった。 - 2026年9月26日
悪意の日本史大塚ひかり読み終わった面白い、と書くと語弊があるけど非常に読み応えがあり、興味深い本だった。 ネットでのアンチコメントや炎上は昔から変わらず存在しているが、最近はより過剰というか、潔癖度合いが増している気がする。 非難される対象は多方に散らばっているが、より社会的地位の低い弱者か権力を誇示する強者に矛先が向けられがち。少し前はそんな風潮だったように思う。しかし昨今、「弱者」「強者」とは別ベクトルで、「間違いを犯した対象」への非難が激化している。デジタル化が進み、昔の情報が残り続けることになったことも要因の一つだろう。口承や記憶のみで語られていた悪行も、記録として可視化される。一つ事件が起こると、過去のあれこれが掘り起こされる。無断転載により拡散されて、対象は袋叩きに遭う。それは全て「間違ったモノ」に対する「正義の鉄槌」として正当化される。ひっきりなしに繰り返されているこれらの現象は、現代特有だと思っていた。 しかし日本の歴史を遡ると、天津神国津神の時代から悪意は蔓延っていたのだと著者は語る。 学生時代、「ヤバい児童虐待だな」と感じていた『落窪物語』等が取り上げられていて、著者の現代語訳もわかりやすくて面白い。 悪意の今昔を振り返ると、人間の本質は変わらないんだな……と呆れ半分感心半分という感じ。 特に、狙いを定めるのが後から反撃されることの無い弱者や失墜した権力者な所。世間を味方につけて叩く精神は昔から変わらない。 また、恐怖を覚えたのはルワンダ虐殺の話。 分断することで、対立する相手を非人間と洗脳する所が恐ろしい。曖昧な情報や偏った知識は、凡庸な人間を残虐な怪物に変える。 相手が同じ人間であると知ること。そして何より、自分自身の悪意に自覚的であること。その2点を意識して生きることが、我々が畜生道を免れる唯一の道なのではないだろうか。 本書を読んで、悪意の長い歴史と脅威を学ぶ機会を得ることが出来た。 大原ひかり氏の文章がとても読みやすく、作中で省略されていた他作品のテーマも気になったので今後読んでみたい。 - 2026年9月24日
アフター・ユー一穂ミチ読み終わった切なく、苦しく、愛おしい。 割り切れない気持ちと心に巣食った薄暗い秘密、そして日々の中に確かに在る愛情。グラデーションのように入り交じる感情の中で、消息を絶った彼女の痕跡を辿り、主人公はとある島を訪れる。 あらすじを全く調べずに読み始めた為、お話がどこに向かうのかが気になり、するすると読み進めた。直近で読んだ『ツンデミック』やそれ以前の作品でも感じたが、人の心の機微や善悪が混在する性を描き方が秀逸。 なんでもないように生活を送っていても突然決壊したダムのように涙がこぼれる。殆ど忘れていた感情が引き金になり衝動のままに動く。 それらの描写は、場合によっては不自然さが生まれる。物語を動かすための舞台装置になり過ぎない匙加減で、心の動きを捉えた絶妙な文章が好ましいと感じた。 キャラクターも良い。主人公である青吾に同行する沙都子は、何事も思い切りが良くて(良すぎて)、本人は大真面目なのに読んでいるとどこか面白い。どちらかといえば受動型の青吾との掛け合いは非常に軽快。彼女は、物語の重みを良い意味で軽減させてくれる彩度の高い人物だった。 電話ボックスでの対話がとても印象的。脳内で映像化したくなる場面だった。 今では見かけることも激減した場所だからこそ、どこか非日常な空気が漂う。テレカの度数といい、昔読んだ『ルート225』を思い出した。 わかりやすい結末ではない。 この後も青吾や沙都子の生活は続き、いつかこの本の中で描かれる数日は過去の思い出となるのだろう。しかし彼らの人生には、時折見失ったとしても地続きの愛がある。それを私は知っている。 星が見えない夜も、星はたしかに存在している。何年も前に喪われた星だとしても、その光は私達を照らしてくれる。そのあたたかい愛おしい存在に気付くための物語だと感じた。 - 2026年9月23日
魔女の体力 40歳、女性が体力をつけるべきときイ・ヨンミ,田中千晴読み終わったおすすめで何度かタイトルを聞いていて手に取った。読みやすく、出会えてよかった本! 学生の頃から体育が苦手で、運動も好きではない。特に学校でのマラソン大会は苦痛も苦痛、何故こんな苦しい思いをして走らなければならないのか!と嫌々走っていた記憶しかない。 美容目的で筋トレをしていた時期はあったけど、それも数年経つと三日坊主。今では通勤と仕事で辛うじて歩数を稼ぐ日々。 正直、運動意欲が低体力からトライアスロン選手まで上がるというのは、ちょっと想像の域を超えていた。元々編集者としてバリバリ活躍していた著者だからこそ、胆力が備わっていたのでは?と感じる節もある。 しかし、コツコツと継続することが如何に力を生み出すか、という点においてすごく説得力のある作品だった。 本書で描かれる運動習慣は一貫して「ゆっくり、少しずつ、だけどコツコツと」をモットーにしている。実際私はこの一冊を通して著者の運動遍歴を読んでいるけれど、それは10年以上の時間をかけて著者が積み上げてきた記録である。 ある女性がトライアスロンに何度も出場している、と聞くと縁のないハイスペックな人の話だなと感じるが、グラウンドを1周だけ走り、その感覚を少しずつ身体に慣らしていって運動を始めた、という部分を読むと、私も今日から始められそうな気がしてくる。 この「出来そう」の範囲をミリ単位で徐々に広げていくことが、健康な人生を歩むための第一歩なのかもしれない。 死に打ち勝つことは今の私達には不可能だけれど、死ぬまでの動線を変えることはできる。 今の私が運動大好き人間になれるかどうかはさておき、自分の中の「面倒くさい」を少しだけ手放して、心身共に健やかであるための小さな努力を、今日から進めていきたい。 - 2026年9月21日
ツミデミック一穂ミチ読み終わった真っ赤な表紙に大きく描かれた菊の花。 ギョッと目を引く装丁は、短編集の内容にぴったり。黄色い菊は仏花としても用いられて、「長寿・幸福」の花言葉を持つ反面、「破れた心」というネガティブな意味合いもある。 コロナ禍で生きる人々の“罪”に焦点をあてる本作は、感染症が蔓延する世界の閉塞感・鬱屈とした世相を緻密に描いている。 あの頃は大変だったなあ…と思い返すことはあれど、記憶は月日が経つと共に忘れている部分がある。様々な年齢の男女の目線からコロナ禍を振り返ると、当時私が感じていた苦しみはほんの一部であったことに気付く。 感染症が流行した時にどのように対策を行い、暴動が起こり、鎮静されていったのか。実録として資料を残すことは勿論大切だ。 他方で、その時を生きた人々の感情や思考をありのまま記録することは難しい。ドキュメンタリー等でコロナ禍の後を生きる人にフィーチャーすることはあるが、あくまで一過性の記録である。 物語の形で、結果や事実以外の部分を記録すること。その作品が直木賞を受賞して、今後も読み継がれていく作品になること。それらを経て今私が読みコロナの時代を振り返っていること。 全ての巡り合わせが有難く、得難い読書体験となった。 前半の少しグッと迫る締め方も好きだし、後半のどこか掬いあげてくれるようなラストも好ましい。この順番で並んでいることで、心にしこりが残らない読後感となっている。 特に「特別縁故者」が良かった! 他者に対して疑心暗鬼になったり、狭量になりがちな世の中で、人と人との繋がりによってどうにか一歩踏み出す活力を得る所が良い。 人生はそういう形で成立していて欲しいと、切に願う。 文庫書き下ろし作品も掌編ながら読み応えがあった。大人にならざるを得なかった子供たち。 彼女達が年齢相応に成長するまでに、割り切らず、諦めずに生きられる世界を作っていきたい。そう感じさせてくれるお話だった。 一穂ミチさんの一般書を読んだのが今作初めてだったので、これを機にたくさん読んでいきたい! - 2026年9月21日
森のバカンス小川糸読み終わった著者の森での生活を綴る日記風エッセイ。 『針と糸』を読んで以来のエッセイ集で、日常風景が大きく変わっていてびっくり。 ベルリンでの生活とは異なるが、森もある種別世界のように感じる。本当に現代日本なのでしょうか?と問いかけたくなる程、異国情緒溢れる空気が漂っていた。 小川糸さんの眼差しで描かれる森は、自然の美しさで溢れていて、生きる活力に満ちている。そして何より、四季の彩りが豊か! 一日は長く単調なのにいつの間にか月日が過ぎ去っている現代社会とは、時間の流れが全く違う気がする。あっという間に一日が終わるのに、季節の移ろいをしっかりと体感する日々。こんな風に地に足をつけた毎日を送りたい、と純粋に憧れる。その反面、今の私が森の生活に飛び込んだとしても、足りない物や苦労する部分に目を向けてしまうかもしれないとも感じた。 私が私なりの言葉や視点で、毎日の見逃してしまいそうな小さな幸せを積み重ねて、自分で選んだ暮らしを大切にすること。 苦しみや悲しみにで遭遇した時、「そういうこともある」とどうにか乗り越えてまた歩き出すこと。 その延長線上に、小川さんが抱いているような充足感があるのかもしれない。 本書を読んで、背中を押してもらえたように感じた。 - 2026年9月20日
深淵のテレパス上條一輝読み終わったとても良質かつ好みのホラー小説。シリーズものなのが嬉しい! まず超常現象を調査する、という姿勢が良い。あくまでオカルト全振りではなく、科学的根拠に基づく調査を前提としていて、その一方でESP能力を持つ者も登場する。他作品にはなるが、小野不由美さんの悪霊シリーズに登場するSPRに共通する部分があるので、同シリーズを好きな人には刺さると思う。 キャラクターも個性がある。晴子と越野のタッグも魅力的だが、倉元や今井達と協力して調査にあたる描写もぐんぐん読み進めたくなる面白さがある。今起こっている現象がどこに由来するものなのか、迫りくるナニカから依頼者を救うことはできるのか。晴子達が謎を追いかけていく姿にページをめくる手が止まらなくなる。 ジャパニーズホラーとして著名な作品を彷彿とさせる場面もあり、ホラー好きとしては王道の味付けが用意されている所も好き。 これこれ!と言いたくなる設定を活用しつつ、ストーリーとしてはしっかりと越野の成長を描いていたり、埋め込まれた伏線を綺麗に回収していく様は素晴らしい。しっかりと読者を怖がらせる描写といい、純粋に楽しいホラー作品だった。 次作のポルターガイストも早く読みたい! - 2026年9月19日
アンチ・グッドモーニング八木詠美読み終わった作品としてかなり好きだった。 眠れない人の話であり、世界に適応することを「正解」とする世の中へのアンチテーゼが盛り込まれたお話。 人々が笑顔で受け入れていくものと、見えない振りをして流されていく歪なもの。どちらも受け容れ続けた結果、主人公の心と身体は分離していく。眠れない中、意識が吸い寄せられるのは過去の小さな棘の数々。思い出した所で、何にもならない。変わらないと分かっていても尚、思考は止められない。眠ることができなかった日の質感が脳裏に迫ってくる程に、不眠の描写が上手い。 夜が終われば朝が来て、仕事は絶えず押し寄せてくる。絶望した所で眠ることも休むことも消えることも出来ない。世間ではホワイトな上場企業として評判の職場は、ポジティブな重圧をかけて、口角を上げたまま要求を続ける。 貧困、戦争、家庭内の不和等の直接的な加害性とは異なる、透明な苦しみの表現が凄い。 一定のルールで管理された世界が、角が取れて丸みの帯びた物たちが、人間の激情を統制して鎮静させる。 そして私たちは、怒りを放出する手段を忘れてしまう。 無意識の諦念を表現するモチーフがそこかしこに出てくる。セルフケアグッズ達は、それを求める者には素晴らしい代物だけれど、時として「自分で治して折り合いをつけて生きていきましょう」という圧力にもなる。 夫の献身的なケアと治らない己とそれでもやってくる朝に、次第に身動きが取れなくなる主人公の姿は、読んでいて息苦しく感じられた。 「30数年生きていても、いまだによかわからない。これだけの美しさを持ちながら、ときに信じられないほどの醜悪さを見せつけてくる世界をどのように信じればよいのか。」 すごく共感が出来て、切実な一文だった。 ラストの展開も好き。私はやはり、諦めて手放してしまう人よりも、自分の芯をグッと握りしめて、前を睨みつけながらも何とかクソみたいな世界を歩き出してくれる人が好きなのだと思う。 - 2026年9月19日
失われた貌櫻田智也読み終わったシンプルに面白かった。 警察小説としての読み応えもありつつ、どこか探偵小説を読んでいるような感覚もある。 主人公・日野の着実な捜査の過程が読みやすく、落ち着いた物腰と時折挟まる小粋な会話の応酬に好感が持てた。 何となく、警察ものは型破りで猪突猛進な主人公が多い印象だったが、一概には言えないなと認識を改めた。 冒頭の掴みも良い。「顔のない死体」という最大の特徴の他、いくつかの違和感や謎が提示される。少ない手がかりから捜査を広げていく展開に引き込まれる。一見すると点々と描写される事物が、段々と一本の線になっていく流れが秀逸で、伏線回収が素晴らしい。 ミステリ好きは「もしや……?」と予想がつく部分もあるかもしれないが、真相と向き合う主人公の葛藤と決断は、言葉では言い表せない程に心に響く。終盤は特に、言葉で説明するより実際に読んで!と言いたくなる場面が多かった。 物語自体、驚愕のどんでん返しや緊迫する場面の連続ということはなく、そういう読み応えを期待すると淡々としすぎているかもしれない。 しかし、警察としての信念や人間ドラマを繊細に描いた作品として、とても魅力的な一冊だった。シリーズ化も期待したくなる面白さでした! - 2026年9月16日
何も起きない夜日記月と文社読み終わった「さえない平日の夜や、闇落ちしそうな日々を乗り切りたいとき、本書を手に取っていただければ幸いです。」 正に今だ!と思った。 ちょうど毎日の仕事や生活に打ちのめされていた平日。砂漠の中のオアシスを見つけたような感覚がして、このタイミングで出会えたことが本当に嬉しかった。 17人の平日の夜について。年齢も職業もばらばらな人々が、日記のようなエッセイで自らの日常を綴っていく。 人に見せる日記は、実際に書く日記よりも少し上澄みというか、体裁を整えたものが多いような気がする。しかし本書は、自分の思考や生活の切実さを深掘りながら言葉を紡いでいる文章が多く、内側を向いている感覚が心地よかった。 今の日本を生きている人で、何の不安もなく毎日ハッピー!みたいな思考を持てる人間はすごく稀なのだと思う。このまま暮らしていけるだろうか、という不安は終始付き纏う。 それでも大体の場合生活は続くし、食べて、働いて、寝たら次の「今日」が始まる。鬱々とした感情やぐるぐると渦巻く思考と折合いをつけながら、どうにか生きている。 その晴れでも雨でもない曇りみたいな日常を文章にした作品のように感じた。 ひとつひとつが短く読みやすい。 どの文章も好きだが、【〈友〉についての書簡】は視座に個性があって言葉選びが良い。安心をあたえてくれる存在を友と呼ぶ、著者の感性が本当に素敵。 【“いい子”の私を脱ぎ捨てて】は世代が似ていることもありすごくすごく共感した。特にこの一節。 「私には結婚願望がない、というか、結婚しなくても結構楽しく生きていけるんじゃないかと思っている。(中略)なのに、知り合いの結婚報告を受けてこんなにもたじろいでいる私は一体何なのだろう。」 とても分かる。この焦りや不安の中でも自分の機嫌をとるのが上手い著者を見ていると、もう一人の自分を見ているような感覚がした。私も同じだよ!と声をかけたくなる文章だった。 それぞれの文章の後ろについている質問コーナーも良かった。読み終えてから、自分だったらどう答えるかを日記の後ろに書いてみたりした。とても楽しいのでオススメです。 先に刊行されていた『私の孤独な日曜日』は未読なので、絶対読みたいと思う。 - 2026年9月15日
魔女のまなざしくらはしれい,角野栄子読み終わったとってもステキな本! 魔女についてのエッセイ集。くらはしれいさんの挿絵もすごく可愛くて、ときめいた。 『魔女の宅急便』はずっと読みたいと思いつつ、まだ原作に手を出せていなかったので、これを機に読んでみようと思う。 魔法を非現実なものと割り切るのでなく、人々の願いや恐れの中に存在するのだという考え方が良い。「誰もが心の中に持っているもの」と考えると、単調な現実にどこか彩りが生まれるように感じる。 角野さんが実際にルーマニアの魔女に会いに行ったり、魔女に関わるお祭りに足を運ぶ姿も読んでいて楽しい。 実際に旅をされたのが30年以上前とはいえ、そこには現代に引き継がれている民間信仰の名残りが見える。世界には様々な祭事があるのだな、と民俗学的な観点でも新鮮で面白かった。 作品全体を通して、私たちが生きる世界と見えない世界の境目についての言葉がとても心に響いた。普段、意味や価値に固執してしまいがちだけれど、言葉にできない感情や感覚を捨て去るべきではない。 そうした曖昧なものの先に、私たちが夢みた魔法の世界が広がっているのかもしれない。 特に心に残った一文 「きれいはきたない、きたないはきれい」。きれいなものは人の喜びなのだ。そしてきたないものは、きれいを支えている。それが命あるものの生きている世界なのだ。 角野さんの目に映る魔女は、時に美しくあたたかく優しい。だけど野卑で恐ろしく凄惨な姿も見せる。両方を併せ持つからこそ、魔女は魅力的なのだろう。 私の心に善悪が2つ存在する時、そこには魔女が住んでいるのかもしれない。そう考えるとすごく心が躍る。 魔女のまなざしを忘れずに、私もいつか、角野さんみたいな素敵なマダムになりたい。 - 2026年9月13日
考察する若者たち三宅香帆読み終わった三宅香帆さんの著書は『人生を狂わす名著50』以来の2冊目。なぜ働はまだ積んでいるのでそのうち読みたい……。 本作は現代の流行や風潮から若者の「報われたい」思考を読み解いていく。SNSの変容やドラマ・漫画等のエンタメにおける考察文化の深層を紐解いていくことで、現代人が何を求め、欲しているかを丁寧に解説している。 若者達の多くが、社会構造上報われない(=大成する・理想とする形に成る)のは分かっているけど、せめて少しでも報われたい(=失敗しない・他から浮かない)、という感覚が強いのかなと感じた。その気持ちは私自身も日々痛感している。 また、自分らしさが生きづらさに繋がるというのが、特に心に響いた。 他者との輪を乱さないための仮面を外した時、その中に在る「オリジナル」を否定されるのが怖い。自分の言葉、思いを話し合うことの大切さは分かるけど、理想とは違い、それが確実に受け入れられるとは限らない。それならば、作った自分を認められる方が楽で安心できる。 常にこの感覚を抱いているので、細やかに言語化されている文章にとても共感を抱いた。 本作は決して、現代の感覚や世相を批判している訳では無い。ただ同時に、自分自身の感情の価値にもっと目を向けることの大切さを語る。 タイパコスパを重視するのも悪くないが、時間がかかっても、1人ずつが持つ感性・考えを尊重して最適化に抗う。それがAIではない人間が持つ大きな魅力なのだと思う。 私も、私なりの言葉で本を読んで感じたことをこれからも書き記していきたい。そう思わせてくれる一冊だった。 - 2026年9月13日
魔女の館の殺人三日市零読み終わった書店の新刊棚に続編があるのを見かけて、気になって手に取った本。 リアル脱出ゲームの空間で起こる殺人事件を主人公達が力を合わせて解き明かすバディもの。 脱出ゲームが実際の事件によってクローズドサークル化するのが面白い。 本筋の推理と共に、ゲーム上の謎解きも登場する。正直、謎解きクラスタではないので難しくない?と思う箇所もあるけど、登場人物達がしっかり解いてくれる&巻末に解答がついているので、安心して読み進めることが出来る。 物語の探偵役を担う主人公達も、それぞれ特徴があって面白い。一見ホームズとワトソンのような関係性だが、互いに役割を持って真相に迫っていく姿が読んでいて楽しい。何より、極限状態の中で信頼出来る相方がいることの頼もしさをひしひしと感じる。 また、理人の特徴は読者が状況を振り返ることにも一役かっていて、ミステリ初心者に易しい設定だと感じた。 犯人については登場頻度が高く怪しい、台詞が少なくて何か隠してる?等メタ読みしてしまいがちだったが、疑惑を裏切られる形の展開で面白かった!ミステリジャンルに対して造詣が深い訳では無いが、謎解きに破綻も無く説得力ある真相だったと思う。 理人と詩文のコンビが個人的にかなり好きだったので、次回の孤島クローズドサークルものも楽しみ! - 2026年9月10日
- 2026年9月9日
ハウスメイド3フリーダ・マクファデン,高橋知子読み終わったシリーズ完結編。 相変わらずテンポ感がよく読みやすい!あっという間に読み終わってしまった。 1巻、2巻と比べると話の立ち上がりが少しゆっくりで、不穏な空気を感じながらも正体を突き止めきれないもどかしさが続く。 前作まではほぼ全員敵というか、主人公のミリーにとって害をなす可能性が高い人物に囲まれており、未知への恐怖や警戒が物語の主軸となっていた。しかし今回は、エンツォやニコ等の信頼する家族から生じる不安も含めて恐怖へのトリガーになっている。真綿で首を絞めるようなスリルの方向性が新鮮だった。 個人的には、以前のタイプの怖さが好み。 また、このシリーズの魅力である主人公の暴走が、今作は控えめな印象。 勿論、歳を重ねて母となったミリーが思慮深く慎重になったことは好ましく、20代の彼女を知っている身として、平穏な生活に落ち着いた姿は素直に喜ばしい。ただ、これまでは後半からフルスロットルに暴れるミリーに対して「やっちまえー!」的な楽しみ方をしていたのも事実。悪をフルボッコする正義の鉄槌(やりすぎ)小説としての勢いは少し弱まったかも。 ただ、その分ミリーが築き上げた家族と彼らの愛がしっかりと感じられる最終巻だった。
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