みーる "PRIZE-プライズー" 2026年3月17日

みーる
@Lt0616pv
2026年3月17日
PRIZE-プライズー
ほぼ1日でスムーズに読むことができた。直木賞の受賞に取り憑かれたかのような狂気じみた天羽カインの他者への関わり方は乱暴で自己中心的。こんな人と日常的に関わると息が詰まるだろうなぁと。同時にそれほどまでに1つの目標に向けて突き進むことができるそのエネルギーに羨ましさも感じた。かっこいいなぁとさえ思えた瞬間が何度もあった。 特に、天羽カインの作品に対する姿勢。一切妥協せず、我が子のように大切に大切に世の中に送り出す。作家というものは自分の作品にここまで愛を持って向き合うのかと感心させられた。さらに、その我が子を読む読者や本屋に対する心からのリスペクト。序盤、穏やかなカインが一転して、ペンの太さやらプレゼントの受け取り方やらを編集者に捲し立てる場面。「なにか間違ったこと言ってます?」の一言が強烈だ。間違ったことは何一つとして言っていない。全ては読者のためなのだ。とはいえ…周りの人はしんどいだろうな… 中盤にかけて、千紘とカインが心を通わせていく。距離が近づいていくにつれ、「なんかわからんが危ういぞ…」と不安が募る。千紘の性被害の体験談を小説に落とし込み、その小説が直木賞。しかし、1番近くで助けてくれた千紘を傷つけてしまう。賞よりも身近な人な大切。そんな展開を予想したが外れた。 千紘は編集者として一線を越える。カインに直木賞を獲らせたかったこと以上に千紘自身がカインと同化してしまう陶酔してしまった結果だ。思えば中盤あたりで千紘はカインに気に入られたいという潜在意識が垣間見えていた。独占欲や執着という言葉があったように思う。だった一行でも許さないカイン。直木賞以上に自分の書いた小説が何より大切だというブレない信念。朝井リョウの「インザメガチャーチ」にも類似した展開だと感じた。視野が極端に狭くなった千紘。編集者という立場を超え、千紘という人間として向き合ってしまった。編集者と作家の関係の難しさがリアルに描かれていた。どちらも作品をより良くしたいのは同じ。自分の生んだ子供を大切に思う親とその子供を育てる教師の関係に似ている。教師は親ではない。どれだけ自分が正しいと思っても超えてはいけない一線がある。そのことを改めて思い出させてくれた。 一冊の本が完成するまでに様々な人が締め切りに追われながら、作家と関わり合いながら確認作業を行う。その本が自分の手元に届くまでに書店員が工夫を凝らしてくれている。そのエネルギーを感じ取りながら本と向き合いたいと思った。 それにしても、直木賞の魔力とは何なのだろうか。ニュース速報で出るほど栄誉ある賞。しかし、何がどう優れているかは一握りの有識者(現役の作家)によって決められる。そもそも小説は審査できるものなのか。お酒と同じでどこまでいっても嗜好品の枠を超えないのではないか。ましてや、その善し悪しなど読者の生活体験や価値観が大きく起因するもの。フィギュアスケートの採点もよく分からないが、それ以上に小説の判定基準は曖昧この上ない。でも、だからといって直木賞が不要だとは思わない。一般読者も少なからず盛り上がるし、本への興味の入り口にもなる。受賞すれば否が応でも看板になる直木賞。狙って獲れるものではないことはよくわかった。運やタイミングも大きく左右する。判断基準が他の賞と比較して曖昧。暗闇の中をどこまでも進み続ける勇気と覚悟がいる。そんな状況で「直木賞を受賞したくてたまらない」とその覚悟をオープンにできるカインはやっぱりかっこいい。 もしかしたらありとあらゆる賞レースで最も獲得することが難しいのが直木賞なのかもしれないなと思ったり。 登場人物としては、天羽カインの輪郭がはっきりしており、物語を引っ張る主人公であった一方で、周りのキャラクターの輪郭がややぼやけていたようにも感じる。 もちろん、天羽カインのキャラクターを際立たせるためではあるが、石田も新も「物語の展開上の役割」以上の登場人物としての魅力がない。唯一、千紘はラストの描き方で一気に印象が変わった。最初は、性被害の背景が明らかになった千紘はもう少し深められる余地があったのではないか、ただ天羽カインに魅せられているだけでは?と思っていた。 ただ、「あなたを、許さない」のカードを見た千紘が「この一言が永遠に私だけのものならば許されなくていい」の一言はゾッとした。「あなたを、許さない」は天羽カインはインタビューで救いの兆しがない言葉だ。そのことを知らないにせよ、自分のしたことに罪悪感が無いような一言。編集者としてではなく1人の人間として天羽カインに陶酔していたのだなと。もはや教祖だな。天羽カイン。 村山由佳さんのインタビューを観ているとこの人自身が天羽カインのモデルのように思えてくる…裏では後部座席から蹴り飛ばしているのかな…
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