
ハヤシKYヘイ
@heiheikyo1
2026年3月21日
プレイ・ダイアリー
大前粟生
読み終わった
役者の「私」が、次に舞台で演じることになっている「菜月ちゃん」という役の半生を振り返りながら、役作りを進めて演劇本番当日へと向かっていく日記が書かれる。
菜月ちゃんは、母親と小学校の先生から「女の子は笑顔でいた方がいいよ」と言われた。その言葉が顔に張りつき、同級生の葬式でも「笑っているように見えた」と他者に言われてしまう。会社を休むようになった菜月ちゃん。母親に勝手に一人暮らしの家を解約され引越しを強制されそうになった菜月ちゃん。街中で男の人にぶつかった時の感覚が忘れられず、やがて男を対象とした「ぶつかり女」となっていき、行方知れずとなった菜月ちゃん。
「私」が菜月ちゃんという役へと近づく上で、女という社会的属性が鍵になっていくことが想起される。稽古場での男性俳優との議論において男側が、日常的にジェンダーに対して無自覚でいられることが浮かび上がる流れは、ありそう、という温度感で印象に残った。
それでも役作りに苦戦する「私」がある日、駅でぶつかり男に遭うシーンはかなりスリリングだった。ぶつかり男に対して思わず溢れた言葉の数々は、期せずしてぶつかり男の心情にシンクロしていく感覚を「私」にもたらした。ぶつかり男の心情を経由して、「ぶつかり女」にならざるを得なかった菜月ちゃんへと、「私」はさらに肉薄していく。
日記の形式で断片的な情報から類推せざるを得ない冒頭は読むのに集中を要したが、後半はガーっと一気読みしてしまった。面白かった。


