
okataro
@okataro007
2026年3月21日
余生と厭世
アネ・カトリーネ・ボーマン,
木村由利子
読み終わった
デンマークの臨床心理士である著者が、孤独な老精神科医と患者をめぐる日常の変化を描いた作品だ。
毎日が延々と続くようでいて、残り時間は刻一刻と消えていく。70代の主人公は、自らが営む診療所を閉め、引退する決意を固めていた。しかしある日、新たな患者・ドイツ人女性のアガッツと出会うことで、平坦だった日常に変化が訪れる。
主人公は、アガッツに対してどんな感情を抱いたのだろうか。その解釈は読み手によって様々だ。私はある種のラブストーリーのようでもあり、同時に、彼が手放していた「もう一人の自分」をアガッツに重ね、対話を深めていたようにも思えた。
正直なところ、ラストシーンの行動は客観的に見ればストーキングそのものである。しかし、前を歩くアガッツを「先にある見えない恐怖」あるいは「先行する自分自身」だと捉えると、振り返った彼女に声をかけられるシーンは意味合いが変わってくる。主人公はようやくその恐怖から目を背けず、興味関心を持ってついていく決心をしたのだ。それがどのような結末に導くのかは書かれていないが、その余白がまた良い。
また、本の装丁からも日常の平坦さの中にある静かな葛藤を感じさせる。ザラついた紙質が、印字されている文字に独特の表情を持たせているのだ。シンプルでありながら、本の内容とリンクした優れた装丁だと感じた。

