

okataro
@okataro007
- 2026年3月23日
羊式型人間模擬機犬怪寅日子読み終わったとある一族に仕える、アンドロイドから見た不思議な物語。はじめはその独特な文体に付いていくのがやっとで、登場人物も多いこともあり、誰がどのことを言っているのか理解するのに時間がかかった。時々文章が滑り何度も元に戻っては読んでいくうちに、人として感じることと、人でないものとして繰り返すことをこちら側も体験していた。順序立てて行動をしているにもかかわらず、その節々で記憶や衝動が時系列や情景をランダムにさせる。 物語全体を通して、何かにケリがついたり、真相が暴かれたりすることは無かったのだが、一族の「血」から逃げられない人間が見る世界と、理から逃げられないアンドロイドが見る世界のアンマッチなようで、根幹は同じような描写がとても良かった。眠ることで機械の彼女の感情はリセットされ、小さな死を繰り返す。それは、一族の一生を見守るための逃れられない理でありながら、ほんの少しだけ変わっていくきっかけでもあったのだった。 - 2026年3月22日
ザ・ロイヤルファミリー早見和真読み終わった昨年秋から放送されていたドラマ版(日曜劇場)を見ていたこともあり、その熱が冷めやらぬまま、年始から原作を読み進めた。 物語は、ワンマンな馬主・山王耕造と、そのマネージャーとなる税理士・栗栖栄治を中心に、競馬に関わる人々の人間ドラマや、馬自身の数奇な運命を描く。 物語序盤、栗栖はとにかく山王社長に振り回される。一見すると傍若無人で、部下が一番気を使いそうな上司像なのだが、時折見え隠れする馬への深い愛情や、不器用なほどまっすぐに人を想うシーンがズルい。 善人とも悪人とも言い切れない印象だった。栗栖もまた、そんな社長の引力に惹き込まれていったのだろう。 ライバル馬主である椎名とのやりとりも印象的だ。張り詰めた緊張感の中に、好敵手へのリスペクトや、ある種の信頼関係が垣間見える。読み進めるうちに、彼ら馬主の姿が、誇り高きサラブレッドそのものに見えてくるから不思議だ。 振り回される周囲の人間たちも、紆余曲折ありながら、結局は社長が突き進む道に付いていくことになる。 本作では、人馬ともに「親子二代」にわたって有馬記念を目指す姿が描かれている。 親や憧れを超えていく姿、継承される想いを背負い、目の前のレースを懸命に駆ける馬たち。 その結末がどうなったのか。 それは、巻末にあるたった一枚の「戦績表」だけが静かに教えてくれた。 - 2026年3月21日
帰れない探偵柴崎友香読み終わった探偵である主人公は、ある日事務所兼自宅に戻れなくなる。帰る術を見出せないまま、彼女は舞い込む依頼をこなしながら世界中の街を転々とし、そこで出会う人々と束の間の交流を重ねて生きていく。 「今から十年くらいあとの話」の一文から始まる各編は、過去の中の未来を見ているような錯覚を覚え、それでいて明らかに今この瞬間を取り巻く世界の現実であると理解できる。それぞれの話にはっきりした結末は描かれていない。だがその街の空気感や人々の記憶に対する想い、誰かが奏でる音楽によって、世界は空気のようにつながっていく。 本書ですごいと思った事は、はっきり描いていないのにかかわらず、不思議と「あの場所のことだ」「最近目にしたあの出来事に似ている」と、想像を駆り立てることだ。現代社会に渦巻く事象を誇張も無視もせず、あるがままを受け止めていると思った。もはや何が正しく、何が誤りかさえ判然としない「事実」に翻弄されながら、人々は出会いと別れを繰り返し、手にした確かな感覚だけを頼りに生きていく。 読者である私にとっては、何かに偏ることよりも、どちらも内包しながら生きていく事の歯がゆさと戦う話である。 - 2026年3月21日
余生と厭世アネ・カトリーネ・ボーマン,木村由利子読み終わったデンマークの臨床心理士である著者が、孤独な老精神科医と患者をめぐる日常の変化を描いた作品だ。 毎日が延々と続くようでいて、残り時間は刻一刻と消えていく。70代の主人公は、自らが営む診療所を閉め、引退する決意を固めていた。しかしある日、新たな患者・ドイツ人女性のアガッツと出会うことで、平坦だった日常に変化が訪れる。 主人公は、アガッツに対してどんな感情を抱いたのだろうか。その解釈は読み手によって様々だ。私はある種のラブストーリーのようでもあり、同時に、彼が手放していた「もう一人の自分」をアガッツに重ね、対話を深めていたようにも思えた。 正直なところ、ラストシーンの行動は客観的に見ればストーキングそのものである。しかし、前を歩くアガッツを「先にある見えない恐怖」あるいは「先行する自分自身」だと捉えると、振り返った彼女に声をかけられるシーンは意味合いが変わってくる。主人公はようやくその恐怖から目を背けず、興味関心を持ってついていく決心をしたのだ。それがどのような結末に導くのかは書かれていないが、その余白がまた良い。 また、本の装丁からも日常の平坦さの中にある静かな葛藤を感じさせる。ザラついた紙質が、印字されている文字に独特の表情を持たせているのだ。シンプルでありながら、本の内容とリンクした優れた装丁だと感じた。 - 2026年3月21日
HUJAN 雨テレ・リエ,川名圭子,川名桂子,清岡ゆり読み終わった序盤から世界が破滅の危機に晒される。地球の人口が100億を突破しようとしたその時、破局噴火によって地球上の環境が一変する。そんな大災害で両親を亡くした主人公ライルは、被災時に出会った少年エリックと共に、激変する世界の中で懸命に生きていく。 この作品は、災害をきっかけに破綻する人間社会と、災害をきっかけに強く結ばれていく二人の対比が良い。 ライルのエリックを想う気持ちや、家族への思い、友人との他愛のない会話。その裏で、国同士の対立や、知識・資本の差が招いた取り返しのつかない事態が進行し、物語に強いコントラストを生んでいる。 その地で生きる人々の強い絆と、緩やかに暴走していく人間社会。フィクションでありながら、「こんな未来は来ない」とは言い切れない怖さがある。 雨は何を運んでくるのか。 それは私たちにとって、どれだけ大切なものなのだろうか。 - 2026年3月21日
無限病院山田和子,韓松読み終わったこの本を読んでいると、幼少の頃によく見た、暗くジメジメした通路をあてもなく彷徨い藻掻く夢を思い出す。覚めない悪夢の中で、見えているものが自由自在に変化していく。暗闇は黒い生物に、長く続く通路は身体を刺す針に、遠くに見える明かりからは、気味悪い笑顔を浮かべた人の顔。そんな夢だった。空気自体が粘ついた不快感を漂わし、現実に帰ってこれないのではないかと夢の中で不安を増大させた。幼少の頃みたそんな夢の雰囲気が、この本の文章1行1行から染み出ていた。 主人公は、ある日ホテルで飲んだミネラルウォーターをきっかけに身体を壊し、市内の病院にいくことになる。そこからが地獄のはじまりで、胃の痛みと劣悪な病院内の環境と戦いながら、「治療」してもらうために院内を彷徨い続けるのだった。 中国国内の事情を詳しくは知らないため想像でしかないが、作中では、恐らく政治的、あるいは現代社会の課題が表現されているのだろう。あらゆる場所に悪夢が存在するのだろうか。仏教的な死生観と、「病む」とは何なのかを、「生きている」とは何なのかを延々と悪夢の中で探し続ける。そんな作品だった。 どうやら3部作らしいので、続編が日本で出版されたらまた読んでみようと思う。 - 2026年3月21日
ここはすべての夜明けまえ間宮改衣読み終わった身体のほとんどを機械に置き換える、「ゆうごうしゅじゅつ」を行った主人公による、100年の間にあった家族史。普通の人間よりも長く生き、見た目も変わらない主人公は、自分が見てきたこと、感じたこと、言わなかったことを記していく。 一見すると理解しがたいようでいて、どこか腑に落ちてしまう部分があり、ひらがなを多用した特徴的な文体であることも忘れて読み進めてしまった。時折、強く記憶に残る言葉が不意に漢字で表現されるたび、文章に緊張感が走る。普段は淡々と流れていく中で、その一文だけが異質な空気を放つのだ。 物語の後半になると、機械に補助してもらって書き記すようになるのだが、当然のように読むスピードが早くなり、何か大事な言葉を見逃しているんではないかと不安になった。 何もかもが終わりきった世界で、ようやく生きるための歯車が少しだけ噛み合ったかのような、安堵と切なさを内包したラストが、非常に印象的な作品だった。
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