okataro "帰れない探偵" 2026年3月21日

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@okataro007
2026年3月21日
帰れない探偵
帰れない探偵
柴崎友香
探偵である主人公は、ある日事務所兼自宅に戻れなくなる。帰る術を見出せないまま、彼女は舞い込む依頼をこなしながら世界中の街を転々とし、そこで出会う人々と束の間の交流を重ねて生きていく。 「今から十年くらいあとの話」の一文から始まる各編は、過去の中の未来を見ているような錯覚を覚え、それでいて明らかに今この瞬間を取り巻く世界の現実であると理解できる。それぞれの話にはっきりした結末は描かれていない。だがその街の空気感や人々の記憶に対する想い、誰かが奏でる音楽によって、世界は空気のようにつながっていく。 本書ですごいと思った事は、はっきり描いていないのにかかわらず、不思議と「あの場所のことだ」「最近目にしたあの出来事に似ている」と、想像を駆り立てることだ。現代社会に渦巻く事象を誇張も無視もせず、あるがままを受け止めていると思った。もはや何が正しく、何が誤りかさえ判然としない「事実」に翻弄されながら、人々は出会いと別れを繰り返し、手にした確かな感覚だけを頼りに生きていく。 読者である私にとっては、何かに偏ることよりも、どちらも内包しながら生きていく事の歯がゆさと戦う話である。
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