カミーノアン "漁港の肉子ちゃん" 2026年3月22日

漁港の肉子ちゃん
喜久子と肉子ちゃんの関係を通して、「誰かを思うこと」が人をどう変えていくのかを描き出している。 喜久子の「何かを決めたくない」という感覚は、「誰にも迷惑をかけたくない」という思いから生まれているように感じる。その根底には、「自分は望まれて生まれてきた子ではない」という自意識があり、だからこそ肉子ちゃんへの感謝と遠慮が入り混じり、自分の感情にふたをしてしまう。その結果、自分が何を思っているのかさえ分からなくなり、向き合うことから逃げる癖がついてしまっている。 そんな喜久子に向けられる、「生きてる限りはな、迷惑かけるんがん、びびってちゃだめら。」という言葉が、この物語の中心にあるように思えた。人はみなそれぞれで、完璧な大人などいない。だからこそ、恥をかき、迷惑をかけながら生きていくしかない。その過程で、人は他者に頼ることを覚えていくのだと思う。 そして、その延長線上にあるのが「家族」という関係なのだろう。血のつながりではなく、互いに関わり合い、時にぶつかりながらも関係を引き受けていくことで生まれるもの。孤独が問題視される現代に対して、この物語は一つの温かな「あり方」を提示しているように感じた。 また、西加奈子さんの描く感情の立ち上がり方にも強く惹かれる。出来事の最中ではなく、あとからふと思い出した瞬間に、言葉にならない大きなものに圧倒されるように感情があふれてくる。その『遅れてやってくる実感』こそが、その人にとっての本当の感情なのだと思わされる。 読み終えて、人と生きることの不器用さと、それでも関わり続けることのあたたかさが静かに心に残った。
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