浮舟 "小僧の神様 他十篇" 2026年3月25日

浮舟
浮舟
@ukibune_1991
2026年3月25日
小僧の神様 他十篇
小説の神様と言われた志賀直哉の短編集。 志賀直哉の文体は現代小説のように簡潔で硬質、写実的な特徴がある。それでいて幽玄、もののあはれ、余白と日本美を表現出来ている事に天賦の才がある。 たとえば「城の崎にて」に登場する蜂・鼠・蠑螈のシーンでは、それぞれが死んだ事に対して悲しい、涙が出る、怒りが湧いてくるという表現は控えめに描き、淡々と生から死の過程、生と死とは何かについて考える描写が続く。 そこに読者は考える余白が生まれる。また、蜂が死んでいる、生きている蜂は気にせず変わらぬ日常を送っている。という描写から諸行無常、もののあはれを感じる。 それだけでなく、人間の業を描く事も上手い。「范の犯罪」に登場する范が妻を恨んでいるが、それを抑えるためにキリスト教を学ぶ。しかし、妻を殺してしまう。范は罪から逃れる為に事故と偽装するが、裁判官に偽装内容まで伝えてしまう。范にも殺意の在処が分からない。これは范が倫理と業の狭間で揺れ動き、范の言葉に出来ない心理を写実的に描いている。 このように志賀直哉は日本文学の歴史において、古くから続く日本の美を装飾的な文体で表現する技巧から、硬質で写実的な文体で日本の美を表現する技巧を生み出した天才である。 また、日本の美として正統な後継者は泉鏡花、谷崎潤一郎、川端康成だが、志賀直哉も違う角度から日本の美を表現しており、彼らと美の感覚は共通している。 しかし、志賀直哉の小説は神の如く視線であり、自らの苦悩や地獄から考え抜かれた哲学ではなく、あくまで知識の探究によって考え抜かれた小説であり、そこに血が通ってはおらず虚構であると言える。ただ、前述の通り技術と表現は間違いなく天才的だ。
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