@s_ota92
2026年3月29日
夏のレプリカ
森博嗣
p12
「えてして、このような些細な扉から、人生の道筋は大きく変わっていくもののようだ。」
p13
「杜萌は、そのサークルで、七つ歳上の人物に出会った。それが彼女の前に現れた扉だったのである。」
p14
「たとえば、「子供に夢を与える」と言いながら、本当に夢を見る者を徹底的に排斥しようとする社会。」
p15
「夢を見たいと言う執着。目覚めてしまったときの後悔。まだ見続けている、と杜萌は信じたかった。」
p21
「この部屋は写真のように静止し、色褪せることもなく保存されていた。数年の間に彼女自身に起こった変化と比較すれば、この空間は、相対的には過去に向かって逆戻りしているようにさえ感じられる。」
p23
「深く、透き通っている瞳……。おそらく、それはすべての光を拒絶して、何もかもを反射してしまったときにだけ現れる本来の輝きで、それゆえ、外界の光が届かない深い漆黒の恐ろしさを秘めている、と思われるほど美しかった。」
p27
「頬に心地の良い冷たさが触れ、目を閉じると、昇華する二酸化炭素のように、無意識が膨張して彼女の全身を包み込んだ。」
p36
「このドアは、あのことがあってから、ずっと鍵がかけられている。」
p41
「もう、昔の兄ではないのだから……。」
p57
「「無関心は、犯罪よりも卑劣だ。」」
p59
「杜萌は既に居直っていたのである。人生に対して……。すべてに対して……。」
p59
「「いいのよ、殺しても。」」
p90
「西畑などの平凡な頭脳と比べれば、おそらく提灯とレーザ光線ほど、明晰さに違いがあるのだろう。」
p100
「その夏の記憶が一瞬脳裡を過って、杜萌の鼓動は急加速する。周囲の気圧が下がって真空に近づくように感じる。気が遠くなりそうだった。」
p137
「理由は、杜萌自身にあったから……。」
p138
「この情報が社会にあっても、やはり危機からの絶対的な距離は、人を安心させるもののようだ。」
p139
「満足のいく結末だったかもしれない。自分の思うとおりとはいえなくても……。誰でも、何かに支配されているのだ。機転というべきか。考えてみれば、これが一番良かったのだ。誰にとって……?」
p140
「ベッドのすぐ横には、三色の毛の長い犬が仰向けになって眠っていた。この犬の名は都馬という。彼には、現在思い悩む問題はないようだ。」
p141
「目を瞑って記憶を辿る。思い出せるかどうか、試してみたかった。頭の一番奥のファイルを引っ張り出し、アクセスする。この行為が刺激的で面白い。」
p150
「何度も殺されかけたという夢の話を彼女がしていたからだ。」
p152
「「あんなに頭の良い子でも、結婚しようとなると、馬鹿になっちゃうみたい。」」
p166
「僕を追わないで」
p172
「「今でも、頼りなくて、情けない。あの人はね、はっきりいって、私でもっているだけなの。本当に何もできない人なんだから。」」
p185
「「僕を追わないで。」」
p201
「こうして見ても、特に特徴のある人物ではない。だが、この男は確かに少し変わっている。いや、少しではない。他に例がない、といっても良いだろう。」
p203
「睦子は、姪の結婚相手は誰でも良いと考えている。結婚相手など関係ないのだ。そんなもので人生が左右されるようでは、はなから勝負にならない。」
p205
「「たぶん、蓑沢家の一族を疑うでしょう。」」
p209
「時間は、誰よりも勤勉である。」
p215
「また、透明になれるだろうか。もう一度……。」
p222
「「三年まえに、何があったの?」」
p225
「素生はぞっとするほど綺麗だった。」
p226
「空気はまるで存在しないみたいに澄み渡り、死んだように冷たい。」
p227
「白より、綺麗な色はない。」
p228
「彼には綺麗なものしか、見えないのだ。」
p233
「「杜萌、何が見えた?」」
p236
「「貴女が傷つかないように、かな?」」
p236
「「つまりはね、貴女……。杜萌自身の問題なのよ、これは。貴女が納得して、消化できれば、それで完結。」」
p242
「もしそうなら、それは、あの日、銃を突きつけられて微笑んだ人格と同じだ。」
p242
「蓑沢杜萌という名前は、一人の人間を示す。一体のボディを示す。だが、それは決して一つの人格ではない。」
p263
「「でも……、もし、素生さんの目が見えたら、どう?」」
p266
「変化したいという願望が、その幻想を見せるのか。」
p269
「自分は既に、超えている。超越しているのだから。」
p276
「「ああ、運がついてくる頃なんだよ。」」
p287
「行き詰まったときに採る道は、一番険しく遠い道に限る。」
p295
「現実は、常に複雑を装った単純なのだ。」
p312
「「つまり、六時間も寝れる幸せ者ってわけだ。」」
p316
「(あれ?なんか……、変だ。)」
p321
「こういった場合の、人間の勘は無意識の記憶に基づいているので、意外に信頼性が高い。」
p323
「その一連の回想が、片手を髪に触れる仕草一瞬で通り過ぎる。」
p323
「杜萌は駒を大切にしすぎる。たぶん、その僅かな執着こそが、彼女が自分に一度も勝てない理由だ、と萌絵は考えていた。」
p325
「「だって、私だって、つい今しがた、気がついたばかりなんですから。」」
p329
「彼の発言が、犀川助教授が言いそうな台詞だったからだ。」
p335
「「私がもう少し若かったら、西之園さん、貴女にプロポーズしていますよ。」」
p338
「「ちゃんと確かめなさいよ、あんた。すぐ、カラープリンタ、キャンセルして。出す前に自分で見てる?目がついてるんなら、見ろよ、まったく。」」
p348
「「その仮面には……、穴が開いているだろう?」」
p348
「「チャオ。」」
p350
「何故か、皆、安心しようとして、必死なのだ。」
p358
「さきほど、諏訪野がやってきたときに一緒に入ってきたのであろう、彼女の足もとでは、いつの間にか、毛の長いトーマが仰向けになって眠っていた。」
p360
「誰かにもう会えない、ということは、その人間が実在しないことに限りなく等しい。つまり、死んでしまったのと同じ。」
p371
「(私が殺したのと、同じ。)」
p373
「昼間に起きている者がいれば、夜中に起きている者もいる。どんな世界にも表と裏がある。人間だって猫だって、同じことだ。」
p379
「鵜飼刑事の手帳に書いてあったのだ。彼はなんでもその手帳に書く。」
p380
「怒れば怒るほど、気が長くなる短気、とでも表現すれば良いだろうか。」
p389
「それならば、まだ、今年の春に萌絵がうった大芝居の方がレベルが高い。さすがの彼も引っかかったのではないか。」
p391
「目的、オブジェクトではなく、プロセス、そしてプロシジャがつまりは人生なのか。」
p391
「確かに触媒が効いたのかもしれない。」
p396
「人の名前に刻まれたものは、簡単には消えない。」
p401
「「私、ロッキィが大好きだった。」」
p417
「これが、西之園萌絵の記憶方法、あるいは思考方法の特徴だった。」
p421
「誰でも、そう。離れていく。(きっと、もう戻れない……。)」
p423
「萌絵は体調が良かった。今日は朝から最高に気分が良い。」
p430
「「君の仮面には穴が開いてないよ。」」
p435
「「ほらね。人にきかれるまで、言えないことって、あるだろう?」」
p435
「「違う。その事件から僕が学んだ一般論だよ。」」
p436
「「ものごとを客観的に見たというだけのことだよ。それが正しいなんて、とてもじゃないけど言えないね。僕は、それを確かめたくもない。だけどね、客観したときに、初めて見える道筋というものは確かにある。誰もそれに気がついていないかもしれないが、まあ、そんな不安定な状況は長くは続かないだろう。つまり、いつか、誰かが気がつくということ。今、誰も気がつかないのは、全員があまりにも当事者だからだ。この教訓については、あの、天王寺博士の事件で、君も学んだはずだね。西之園君、君は、もっと複雑で度肝を抜くようなトリックのミステリィを沢山読んでいるだろう?君はそれらを全部見抜いてしまう。マジックを見てもすべて種がわかってしまう。それって、どうしてなのかな?君が本の外や舞台の外に、いるからじゃないの?」」
p438
「「名前が逆だっていうのには、気がついていた?」」
p446
「「質問は、質問する人を表現するんだ。それに対する返答なんかとは無関係にね。」」
p466
「「貴女が……、殺したのね。」」
p470
「「チェックメイトね。」」
p476
「(殺しても、いいんだよ。)」
p481
「「私が傷つくと思ったのね。」」
p487
「「貴女に嘘をついたことはないよ。」」
p487
「「萌絵の提案を受け入れなかったことが、一度でもあった?」」
p497
「皆、仕事をして、疲れて、それでも何かを求めて、誰かを愛して、毎日、電車に乗り、階段を上り、汗をかいて、要求して、妥協して、喜んだり、怒ったり、それでも、忘れてしまう……、そう、最後には、全部忘れてしまうのだ。」
p498
「ニューラルネットは、確固たる防御システムを一生かかって組み上げる。」
p500
「「もしかして、僕を知っていますか?」」