
沙南
@tera_37
2026年3月29日

堕落論
坂口安吾
「半年のうちに世相は変った。醜の御楯といでたつ我は。大君のへにこそ死なめかへりみはせじ。」
坂口安吾という人間の考えを、ひとつ残らず読み落としたくないと思うほど夢中になった。
死をも恐れぬ精神が美徳とされた時代。そんな中で、堕落こそが人間の本質なのだと、異端ともいえる考えを世に発した彼の覚悟に、いまを生きる私も救われたような気持ちになった。
高尚な人ばかりが模範であるかのように扱われるのは、現代もおなじ。故に、そこから逸脱している、欠落していると感じる部分を自ら責めてしまうことも多い。怒ったり、恥じたり、涙を流したり。みっともないところもひっくるめて、人に生まれてよかったと心から思える日が、いつか私にも訪れるだろうか。
それはそれとして、理想や理屈を語り倒したあとに、真の欲望を吐露する構成を私は愛している。しかもその欲は、常人が口にすることを躊躇うほどの正直なもの。安吾の文章からも、もはやユーモアとも呼べるような欲が垣間見える。
運命に従順な姿(老いていく、廃れていく姿も含め)は奇妙に美しいとか、美しいものを美しいままで終わらせたい人情があるとか、未完の美は美ではないとか。あれこれ述べた末に、「これは私には分からない。私は二十の美女を好む」に辿り着くところが最高に人間。しかもそれを言っちゃう正直さ。矛盾を矛盾のまま受け入れる、ある種の強さ。なんて魅力的なんだろう。私が心惹かれる人間は、みんなこの世にいないなあ。
てか、やっと春だなあ。安吾の小説は桜の木のあの、化物のやつがいちばんすき。春はどうにも落ち着かなくて、そわそわして、目が冴えてしまう。このままそっと起きておいて、朝になったら桜を見にいってみるのもありかも。いや、寝るかも。
