村崎
@mrskntk
2024年11月9日

わたしたちが光の速さで進めないなら
ユン・ジヨン,
カン・バンファ,
キム・チョヨプ
よかった〜〜!!SF、宇宙、愛!そしてひとりの人の生き方を描いている短編集。亡くなった母に会おうとする「館内紛失」、心をデータ化する「マインド」が、図書館内にあるはずなのに検索に引っかからないという設定的にも大好きな話だった。その人をその人たらしめる遺品ってどういうものがあるだろう、その人が「遺した」ものって、だれでも持っているわけではない。女という性別にうまれて、子どもをうんで、「母」になったキム・ウナと、娘であるジミンが個々として出会い何を思うのか。どの短編も個を尊重していてそれがいい。SFの、舞台は壮大だけど、そこに生きる/生きてきた小さな存在に光を照らすところがすごく好きだな。
「共生仮説」の知らないうちに地球外生物が脳内に入り込んでいて、子どもを育てていた…というトンデモ設定もおもしろく、ゆいいつ生物の記憶を忘れなかったリュドミラと生命体の不思議なつながりも愛を表現していて、初めて知るのに懐かしい、読後感は郷愁感あってよかった。
表題作「わたしたちが光の速さで進めないなら」コールドスリープを繰り返しながらもうやってこない宇宙船をひとり待つ老婆(これだけで好きでしょう)、地位や栄光、家族、実績…すべてを手に入れることなんて無理だけど、光の速さで進めなくても希望を捨てたくはないよねって思った、爽やかなラストがいい。
「わたしのスペースヒーローについて」宇宙ではなく海に潜ることを選んだジェギョンおばさん、宇宙の先の景色を選んだガユン。ヒーローと讃えられたり夢をあたえたり憎まれたり逃げたと批判されるジェギョンも、ただひとりの人間であることが丁寧に描かれている。ジェギョンはガユンにとってスペースヒーローだけど、ガユンは彼女とはまた違う景色を見て、そこにおおげさな感動や押しつけを持たずに、でも伝えたい気持ちを持ったという静かな結末がとっても好きでした。
