
綾鷹
@ayataka
2026年3月30日
かがみの孤城
辻村深月
学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた――
なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。
かがみの孤城に集まった7人の関係性が微笑ましい。
学生時代独特の関係性の鬱屈した感じを思い出す。この物語はファンタジーだけど、学校以外で心を許せる人がいたら、どれだけ救われるか。
アキがルール違反してからが急展開でワクワク。エピローグは予想外だったけど、アキというところが嬉しかった。。
・カーテンの布地の淡いオレンジ色を通し、昼でもくすんだようになった部屋は、ずっと過ごしていると、罪悪感のようなものにじわじわやられる。自分がだらしないことを責められている気になる。
最初はそれで心地よかったものが、だんだんと、やっぱりいけないんだと思うように、なぜか、誰に言われたわけでもないのに、なってくる。
世の中で決まっているルールには、全部、そうした方がいい理由がきちんとある。
朝はカーテンを開けなさい、だとか。
学校には、子どもはみんな行かなければならない、だとか。
・ウレシノのクラスメートがどんな子たちなのかはわからないけど、自分のクラスに置き換えて考えると、漠然とだけど想像できた。ネタにされたり、からかいの延長でバカにされたりする男子は小学校時代からいたし、それが行き過ぎの場合だってあった。
だけど、ウレシノの言うように、こころもまたそれを「いじめ」だなんて考えたことはなかった。
行き過ぎだと考えたことがあっても、ニュースで見るような深刻なものだと感じたことは一度もない。
ウレシノもそうなのかもしれない。たとえ、「ちょっと変になって」も、それをいじめだなんて思わなかったのかもしれない。
・仲が悪くなったわけじゃないと言いながら、自分から謝ったり、何をされたわけじゃないと言いながらも、相手に反省していることを期待したり、ウレシノの話は、彼の混乱をそのまま表すように矛盾がいっぱいだ。強がりもあるし、本音を言いたくないこともあるだろう。
けれど、きっと、嘘じゃない。
その瞬間瞬間に彼が感じた感情は、きっとどれもがその通りで、正しいのだ。
・「あ、ごめん。こころもフウカも真面目だからつまんない?こういう話」
「そういうわけじゃないけど・・・・」
真面目、という言い方が、なんだか自分たちをバカにしているような気がして、こころもフウカも黙ってしまう。自分たちの知らない世界をひけらかすようにそうされると、それが羨ましいかどうかに開係なく、ただ嫌な気持ちが胸に広がるようだった。
アキは今、どこで知り合った誰と、どんな風につきあっているんだろう。羨ましいわけでは断じてない。けれど、外の世界を持っているというただそれだけの事実が、こころの胸をどうしようもなく圧迫する。焦らせる。
・「一何それ。そんな状態なのに、オレのために行くよっていう必死さアピール?オレに、恩売るための」
「違うよ」
マサムネがいつもの嫌みっぽい口調に戻ったのを聞いて安心する。ちょっと前ならイラッとしたかもしれないこの子のそういうところも今は言葉通りじゃないとわかる。毎日一緒にいたから、わかるようになった。
マサムネが言いたいのは、きっと、そんな状態なのに来てくれてありがとう、という感謝だ。それが曲がって、こんな言い方になってしまう。
「そんな状態だけど、マサムネたちがいて安心なのは、私も一緒だよっていうアピール。不安で、行きたくない気持ちで明日学校に行くの、マサムネだけじゃないよ。マサムネが、私たちが来るなら大丈夫って思ってるのと同じ気持ちで、私たちもマサムネを待ってる」
こころの言葉を受けたマサムネが、戻るために鏡にかけた手に、ぎゅっと力を入れた。指が曲がって、縁を強く掴む。
「ーああ」
マサムネが頷いた。
「また明日」とこころは言った。
いつもの「また明日」よりも力を込めて。マサムネも言った。
「ああ。また明日。ー学校で」
・言葉が通じないのは、子どもだからとか、大人だからとか関係ないのだ。
あの手紙を読んで、こころは相手に言葉が通じないことを圧倒的に思い知った。だけどそれは、あの子に限ったことじゃない。喜多嶋先生が「あれはない」と言ってくれたのに、おそらくは、伊田先生にもそう伝えただろうに、それでも伊田先生の中ではそう言われることこそがお門違いでピンとこないのだ。自分がやったことを正しいと言じて、疑っていない。
彼らの世界で、悪いのはこころ。
どれだけこころの立場が弱くても、弱いからこそ、強い人たちは何も後ろ暗いところがないから、堂々とこころを責める。学校にも来ないし、先生に意見も言わない人間は何を考えてるかわからない、理解しなくていい存在だから。
・「自分は、みんなと同じになれないー、いつ、どうしてそうなったかわかんないけど、失敗した子みたいに思えてたから。だから、みんなが普通の子にそうするみたいに友達になってくれて、すごくしかった」
その声に、こころは息を呑む。この場のほとんどみんながそうなったのがわかった。
普通になれない”はずっとこころが思ってきたことだった。
学校に通ってる他のみんなみたいにうまくできなくて、同じになれないことに気づいて、だから絶望していたし、苦しかった。ここでみんなが友達になってくれて、どれだけ嬉しかったか。
しかし、その時だった。
「え、それ、おかしくない?」
ウレシノの声だった。みんながはっとしてウレシノを見る。ウレシノは真剣なー怒ったような顔をしていた。
「フウカは普通じゃないよ」と言った。断言する、強い口調だった。
「優しいし、しっかりしてるし、全然普通じゃないよ」
「あ、そういう意味じゃなくてー。ウレシノがそう言ってくれるのは嬉しいけど」「いいんじゃないの?ウレシノの言う通りだよ」ウレシノの声を後押しするように言ったのはリオンだった。
「普通かそうじゃないかなんて、考えることがそもそもおかしい。そんなの、オレはどうだっていいし、単純にフウカがいい奴だから仲良くなれたんだよ。嫌な奴だったら絶対仲良くならなかった。
それはみんなそうだろ?」
リオンの言葉に、今度はフウカが息を呑んだ。「違う?」と言うリオンに、フウカが「ううん」と首を振った。小声で言う。
「ありがとう」

