ごうき
@IAMGK
2026年4月1日
100分間で楽しむ名作小説 文鳥
夏目漱石
読み終わった
「自分は首を前へ出して冷たい露の滴る、白い花弁に接吻した。自分が百合から顔を離す拍子に思わず、遠い空を見たら、暁の星がたった一つ瞬いていた。
「百年はもう来ていたんだな」とこの時はじめて気が付いた。」
本書は角川文庫より出版された、「文鳥」「夢十夜」「琴のそら音」を収録する短編集であり、気軽に小説に触れてみようと少し大きな文字で素敵な短編を収録したものである。夢十夜を読みたかったのもあるが、いかんせんカバーが洒落ている。ジャケ買いなるものをしたのは今回が初めてだし、今後もうしないだろう。
さて、三作全て読破したので、それぞれに対して思ったことを残しておく。
【文鳥】
文体はシンプル。時たま文鳥を昔知っていた美しい女性に重ね合わせ具に観察する様には、どこか艶かしさを帯びながらも綺麗な感じがする。
ただ、結末には少しモヤモヤが残る。本の背表紙に書いてあるあらすじでこの文鳥が死ぬことを知っていたが、主人公(おそらく、漱石)がそれを下女のせいにしたのは解せない。主人公はそれについて「たのみもせぬものを籠へ入れて、しかも餌を遣る義務さえ尽くさないのは残酷の至りだ」という文句を言っていたが、それは究極的なニヒリズムによる暴論だろう(高校一年生の頃、自分も同じように感じていたことを思い出した)。ロマンスの中にもニヒリズムがひょっこり顔を出すのは、漱石らしさが伺える。
【夢十夜】
背中に背負った子供が石像になったり、明治時代に運慶が仁王像を彫っているなど、全体的に本当に夢の中にいるかのような雰囲気に包まれている。夢の中の不条理な風景を違和感なく読者に読ませることができる、優れた文章力を感じた。また、全夢を通して死や無為が強調されており、こちらにも漱石らしさを感じる。また、夢の締めくくりの一文にとてもセンスを感じる。何となくものすごい余韻を感じられ、本当に忘れ難い夢から覚めたかのような心持ちになる。
【琴のそら音】
漱石にしては珍しい、緩い男女のストーリーであり、夜寝付く時に色々と不安になって眠れず、けれども実際は大したことがなかったという、万人が共感できる可愛らしいストーリーと漱石のユーモア溢れる文体、教養が渾然一体となっており、不思議な読後感である。面白い。ただ、それだけに止まらず、最後には「西洋西洋と騒がれていても、こちら側がしっかりとしていれば化かされることはない」という、大衆小説らしさを醸しつつも、明治時代特有の啓蒙も感じられる。
これらの作品は全て1905年ごろに書かれたもの、つまり前期三部作と呼ばれる「三四郎」「それから」「門」より少し前に書かれた作品である。私が読んだ漱石の作品はほとんどこれらの時期のものであるが、後期三部作ではガラリと作風が変わっているらしい。これを機に、後期の作品に手を伸ばしてみたいとも思う。


