村崎
@mrskntk
2023年9月3日

奇病庭園
川野芽生
魔物に拐かされて塔に閉じこもっている少女を助けに向かう少年、それに対してまったく助けられたいと思っていない少女。少女を助け出すのに〝ふさわしい”とされる二人目の少年。「物語」が創られてしまうグロテスクさ。
しかしそんな物語から鳥のように抜け出していく者もおり、「脚に就いて」「声に就いて」がとくに好きでした。(あとフュルイも……)あ、あとはじまってしまうことを想像させる「繭に就いて」も、二度目はまったく別の読み口になる「蔓に就いて」も。は、きりがない。
まったくべつべつの場所で起こっている出来事かと思いきや、それぞれどこかでつながっており、一度読んだあと、メモをしながら再読しました。そうすると、「あ、この少年ってこういうことだったのか」と、章ごとの解像度が上がり、さらに言うと二回読んだだけでは読み逃していることがかなりあると思うので、何回でも読める作品になっています。
幻想作品でありますが、奇病は現代にも通じるものとしてあり、奇病を忌み嫌う風潮は悲しくもまだなくなっていない。「始まらないのが一番ではあったにせよ。」、序文のさいごにあるこの一文を、ずっと頭に置いています。
はじまりの序文から引き込まれるのはたしか、そして読んでいくうちに庭園にいるのもたしかです。

