カミーノアン "満月が欠けている" 2026年4月4日

満月が欠けている
本書では、「生きること」と「生きのびること」のあいだにあるズレが、切実な体験を通して語られる。緑内障によって視力を失うかもしれないという現実に直面したとき、物欲や読書への意欲が薄れていくという変化は、人間の欲望が生きる意欲と強く結びついていることを示している。これまで自分を支えていたものの意味が揺らいでいく感覚には、強いリアリティがある。 また、「死の大海の上にかろうじて浮かんでいる木切れとしての生」という比喩が印象に残る。私たちが通常考えるような「生が常態で死が例外」という捉え方とは逆に、生こそが不安定で例外的な状態であるという認識が提示される。日常の延長にあると思っている時間の脆さが、鮮明なイメージとして立ち上がる。 とりわけ興味深いのは、「生きのびる」と「生きる」の区別である。健康やお金といった「なくては困るもの」に資源を割き続ける状態が「生きのびる」であり、それは生きるための前提でありながら、いつの間にか目的そのものへとすり替わってしまう。一方で「生きる」とは、理由をうまく言語化できないような衝動に従うことでもある。多くの人が最期に後悔するのは「生きのびる」に偏りすぎた時間の使い方だという指摘は、強く心に残った。 はたして、自分の中で「生きる」に該当するものはどれくらいあるのだろうと、ふと問われた気がした。 「生きる」とは、外的な条件を満たすことではなく、自分の内側から湧き上がるものにどれだけ応答できるかという問題なのかもしれない。その意味で本書は、限られた時間の中で何に重心を置くのかを静かに問い直してくる一冊だった。
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