ピエ "ペンギンの憂鬱" 2026年4月2日

ピエ
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@pie_202
2026年4月2日
ペンギンの憂鬱
ペンギンの憂鬱
アンドレイ・クルコフ
私はペンギンが好きなので、出てくる小説はとりあえず買ってしまう。 この小説に出てくるペンギンのミーシャは、憂鬱症を患っており、寡黙であまり動かない。しかし動作にどこか愛らしさがあり、この陰鬱な物語世界を想像するのを楽しくしてくれる。一番好きな登場人物を訊かれたら、ほとんどの読者はミーシャと答えそうだ。 売れない小説家の主人公ヴィクトルは、新聞に「まだ生きている人物の」追悼記事を書く仕事にありつく。しかし暫くすると、追悼記事を書いた人物たちが次々に死んでゆき…というストーリー自体は、誰が見てもミステリでも何でもない。この小説の面白さは、話の展開よりもニヒルな人物描写にあると思う。 舞台はソ連崩壊後の不安定なウクライナで、マフィアが幅を利かせ、銃撃音や爆発音にも人々はさほど驚かない。登場人物たちの物分かりの良さは、不穏さの蔓延する社会特有のものだろう。 そんな中でもペンギンをきっかけに交友が生まれ、人生がうまく回り始めたかに見えた前半部と、奇妙な仕事の後ろ暗さに目を背けながら続けていて、何も起きないわけがないよね…という後半部のやり切れなさの塩梅が良かった。 ラストはかなり唐突な幕切れだが、私は割と好きだった。舞台ではまだ劇が続いていきそうなのに、急に幕が下りてしまったような終わり方は、小説ならではのものだと思う。 ペンギンのその後を知りたいという読者の声を受けて、続編も出されたようだが、仮に日本語訳が出ても読みたいと思うかどうか…せっかく下ろした幕をまた上げて気まずい芝居を続けるようなもので、陳腐化してしまわないのか不安だ。
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