
阿久津隆
@akttkc
2026年3月28日

アブサロム、アブサロム 下 (講談社文芸文庫 フA 3)
ウィリアム・フォークナー
読んでる
布団に入ると二人は互いに見つめていた。
p.136
というより、にらみ合っていた。話しているのはシュリーヴだったが、二人の故郷のあいだに介在する緯度の違いがもたらしたわずかな違いを(語調とかアクセントの違いではなくて、いいまわしと言葉遣いの違いを)別にすれば、話しているのはどちらでもよく、ある意味では二人ともが話していることになった。なぜなら、二人は一人になって考えており、たまたまその考えを話している声は、声となって聞こえるようになった思考に過ぎなかったからで、彼ら二人は自分たちのあいだに、昔話の取るに足らない切れっぱしから、たぶんどこにも決して存在しなかった、影に過ぎない人々を、しかも実際に生きて死んだ肉体を具えた人間の影ではなくて、もともと亡霊だったものの(少なくとも二人のうちの一人には、シュリーヴにはそう思えた)影を、白い息となって眼に見えるささやき声のように静かに、生み出していた。真夜中の鐘が、雪に閉ざされた閉めてある窓の向うで、美しく、ゆっくり、かすかに鳴り出した。