
うさみ
@usami
2026年4月8日

うそコンシェルジュ
津村記久子
読み終わった
借りてきた
・図書館で見かけた際、表紙とタイトルに惹かれて手に取る。短編集ということも知らなかった。
あー、あるある。いるよねこういう人って思えるような、人間関係の微妙に嫌なところを煮詰めるのがうまい。この作者の話は初めて読んだ。たまに回りくどい表現があって二、三度読み直す瞬間があるけど(私の集中力の問題かも)好きだなと思った。
・「第三の悪癖」「誕生日の一日」「レスピロ」
日々の生活や人とのやり取りの中ですり減る感じと、同時に周りとの関係性に救われる感じ。どちらも伝えるのが上手い。どれも職場の関係性。こういう付き合いができる人がいないので羨ましかった。あと「誕生日の一日」に出てくる以下の表現が好き。
>雅美ちゃんにとって自分の身の回りで唯一、佐江子さんが際限なく話を聞いてくれる人だったため、佐江子さんを気に入ったようだった。こんなふうに言うと、まるで雅美ちゃんが佐江子さんをごみ箱のように扱っているようでもあるのだが
「ごみ箱のように」という表現が好きだった。会話というものが一方的になると負担であるということをここまで端的に表せるのがすごい
・「うそコンシェルジュ」「続うそコンシェルジュ」
表題作。前知識なしに読む。タイトルから勝手に嘘を生業にしている人の話を想像していたため、一見するとごく普通の、人より少し嘘をつくのが得意かもな~ぐらいの主人公が出てきて拍子抜けしたが、面白かった。
主人公が姪の相談に乗ったことをきっかけに、人のために嘘を考えてあげるようなことを何度か繰り返す話。
曰く、嘘つくコツは「自分のついた嘘を覚えていること」「ありそうな嘘をつくこと」「嘘をついた裏付けをあらゆる公的な媒体に残さないこと」「人目につくところで口にしないこと」。コツも、各エピソードで主人公がつく嘘も、正直そんなに大仰な感じはしなかったけど、その分、私の日常と地続きの感じがした。
>嘘をつくリスク、略して嘘リスクは、決して馬鹿にはできないものだ。嘘はつきっぱなしにはできない。嘘は覚えておかないといけない。嘘をついたがゆえに、捨てなければならないものもある。それらを受け入れて嘘はつかなければならないが、さな子はうそリスクは引き受けなかった。
上記は、特に好きな部分。主人公が、さな子という人物に食事の約束をドタキャンされた後のシーン。「好きなタレントの熱愛報道が出た」「SNSを読んでいて疲れた」という、包み隠されなかったキャンセルの理由にどっと疲れた主人公の独白だ。
主人公はさな子の「理解されたい」という気持ちが透けて見えることを煩わしく思い、「体調が悪い」と言ってほしかったと考える。
よく「やさしい嘘」なんて言い方があるけど、こうして考えると「うそ」は良し悪し関係なく、標準装備なのかもしれないと感じた。
嘘は悪いものとして育てられた人が多いと思うが、実際はいわゆる「空気を読む力」に内包されているというか。ないと困るし、うそのおかげで世界は円滑に回っているなと実感した。
また主人公に協力して嘘をついていたお婆さんが、ふとした瞬間に限界が来て協力を止めるシーンも印象的。「嫌になった」とか「罪悪感が辛い」とかじゃなく、お婆さんはこう言った。
「力になれなくてごめんなさいね。でも、私だってうそをついてほしい時に本当のことを言われたことが何度もあったし、それなのにどうしてこの人はうそをついてもらえるんだろうと思ったら、もうできないなと思った」
まるで嘘が尊い救いのような言い方が不思議な感覚だったけれど、前述の主人公の独白があったので腑に落ちた。
・通り過ぎる場所に座って
地下鉄のホームに座って時間を潰す女性の話。
仕事と家での嫌なことを思い出しながら、場所はほとんど変わらず淡々と進んでいくのに、少しの救いのある形で綺麗に終わるのが好みだった。
・「買い増しの顛末」
亡くなった祖父の遺品である同じ色ばかりのボールペンを168本引き取る話。主人公は持て余しながらも、粗末には扱いたくないと、色んな人に譲っていく。お礼に別のものをもらい、それも持て余す予感を抱えながら、主人公が以下のように考えるのが印象的。
「うまく人手に渡したつもりでも、結局新たな何かを抱え込んだりすることになるんだな、というのはなんなとなく理解するようになっていた。そしてそれが絶対に避けるべきことでもないということを」
