kirakirapoppy "三月の招待状" 2026年4月11日

三月の招待状
三月の招待状
角田光代
吐き出されたチューインガムのような惨めな気持ちで、充留はオートロックの扉をくぐり、走るような足取りで駅へ向かった。ちゃんとした大人になろうと、なぜかそんなことを充留はくりかえすように思っていた。自分がこうしようと思うことと、相手にしてほしいことを混同しないような大人になろう。ごはんを作ってもらわなくても、ひとりで食べたいものを食べる大人になろう。そしていつか、いつか遠い未来に、宇田男に絶対馬鹿にされない大人になろう。宇田男に一目置かれるような存在になろう。くりかえしくりかえし思いながら充留は神田川沿いの歩道を歩いた。その決意をくりかえしていないと、その場にしゃがみこみ空を仰いで泣き出してしまいそうだった。
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