
時間のかかる読書人
@yoko45
2026年4月12日

群像 2026年 5月号
講談社
ちょっと開いた
@ 図書館
小特集 奈良有里と読書の歓び〈わたし〉であることの奇跡 辻山良雄
子どものころの奈倉さんは、書店に並べられた本の背表紙を眺めるのが好きで、店内をうろうろしては本棚を眺め、本が語りかけてくる声を聴いていたという。わたしの書店でも、時おり真剣なまなざしで本棚を見つめながら、表紙に書かれている文字を目で追いかけている若い人の姿を見かけることがあるが、そのときわたしはその人の内にある、誰にも侵すことのできない内面の世界を覗き見た気にさせられる。高速回転で動いているせわしない世界でも、小さな書店に入り本棚に並ぶ本を見ているうちに、人はいつの間にか本来のその人自身に帰っていき、「だいぶ奥のほう」にいた自分と地続きになるのだ。
そんなとき人は、そのように意識しなくても、少しでもいい人間になろうと願っているのではないか。多くの人が、そうした世界へのあこがれを取り戻せば、この世も随分生きやすいものへと変わってくると思うが、それは楽観的な考えに過ぎるだろうか。