村崎 "夏物語" 2022年10月5日

村崎
@mrskntk
2022年10月5日
夏物語
夏物語
川上未映子
読んでいると、自分がいかに今まで鈍感にこの世界を生きてきたんだろうと思う。鈍いことはもしかしたらある意味で幸福なのかもしれないけれど、もう鈍感ではいられないし、鈍感なふりもできない。「夏物語」はこの世界に生まれること、そして生むことについて考えられずにいられない。 AIDで生まれた善百合子は、夏子に「あなたはどうして、子どもを生もうと思うの」と問いかける。 生む側にはいろんな理由が、いや実際には理由はいらなかったとしても、いろんな答えがある。子どもに会いたい、育てたい、幸福を教えたい、さびしいから、かわいいから、老後の面倒を見てほしいから。 善百合子の言っていることが極論だとしても、極論とは言えないのだよなと思った。わかってる、実際に子どもを生む多くの人たちが子どものことを考えて生んでいることを、生まれてきた子どもを愛していることを、わたしはわかっているけれど、それでもどうしても、「子どもを生む人は、みんな自分のことしか考えない。生まれてくる子どものことを考えない」という善百合子の言葉を否定できない。 善百合子は「出産は賭け」だと言う。たとえば小さな家に、十人の子どもが眠っているというたとえ話。わたしはきっと、この話を一生忘れることはない。
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