
ぽんさん
@lijitee12
死ぬまでに行きたい海
p.128 富士山
今年の夏、同じ道を通ってまた関西に行った。父の生まれ故郷に行くためだった。
今度も帰り道は夜だったが、この日は月がなかった。富士山の真横を通るとき、さすがに見えないだろうと思いながら念のために窓の外を見た。富士山は見えなかった。
だが目をこらして見ると、空の一部に星が見えないところがあった。それをたどっていくと、富士の輪郭があらわれた。そのとたん、富士の気配があたりを圧してありありと伝わってきた。私は背中に氷の棒を打ちこまれたみたいにぞくりとした。怖かった。説明のつかない、動物めいた恐怖だった。これは何かヤバいものだ、と思った。
目をそらし、気配が追ってこなくなるまでずっと震えていた。
あれから半年ちかく経つが、あのときの鳥肌がまだ背中のあたりに残っている。私はすっかり富士山が怖くなった。写真や絵を見るのも怖い。朝、カーテンを開けるときは顔をでむけて苦くを見ないように気をつける。気に入っていた富士山形のポストイットに出れなくなった。富士山柄のハンカチもTシャツも棚の奥にしまいこんだ。
