ごうき
@IAMGK
2026年4月13日

乳と卵
川上未映子
読み終わった
「大人になるのは厭なこと、それでも気分が暗くなる。どんどんどんどん変わっていく。過ぎていく。それがゆううつで、なんだかものすごく暗い。でもその暗さは厭、気分が厭、厭厭が目にどんどんたまっていって、目をあけてたくない。あけていたくない、から、あけてられない、になりそうでこわい。」
帯には「一夜にして、現代日本文学の風景を変えた芥川賞受賞作」とあった。大袈裟だと思ったが、読み終わった瞬間、とんでもないものを読んでしまった、と思った(ただし表題作を読み終えたのは先週のことなので、誇張された表現かもしれない)。
現代文学の情景描写を習ってみたいと思ってこの本をなんとなく手に取ってみたが、文体がとても特徴的なものだった。併せて収録された『あなたたちの恋愛は瀕死』もそうだが、口語体とも文語体ともつかない、延々と捲し立てるような文体であり、印象に残る。それは恐らく文章をあえて読点で繋げたり不要な部分に句点を置いて文章を切ることによって成り立っているのだろう。本来句点というのは「文章の終わり」という機能を持ち、それによって読み手は一段落する機会を得るが、本作はその暗黙の習性を破ることによって一人語り感を醸し出し、読者に思考の隙を与えない。それが事実の陳列として、乾いた視点を実現している。逆に、作品を上手く掴むことができなければ「結局何が言いたいの?」という疑問が読み手に残るという危険性も孕んでおり、そうなった場合単なる「プレイとしての作品」に落ち着く可能性もある。ただ、多くの人間がそうならないからこそ、この作品の完成度の高さというものは際立っている。
そうした特徴的な文体は、独特な詩的表現を伴って物語を紡いでいく。特に情景描写が精緻で、人物の心理を想像しやすい。緑子の思春期特有の繊細で孤独で些細で攻撃的な弱さは、しばしば日記として挿入されており、その生々しい独白が物語にアクセントをつけると共に、良いシーン転換のきっかけとなっている。それに対して母・巻子の暗い心情が明らかになっている場面はほとんどない。この緑子の本心にのみ着目するという一元的な視点によって、巻子の表面的な明るさが際立つ。とはいえ両者共に同じようなことで悩んでいる(母は乳に悩んでおり、子は生理について悩んでいる)ところが物語を作る核となっているし、親子だなぁといった感じである。
物語全体として緑子に共感できる場面が多かった私はまだ子供なのだろう。そして、その思春期の弱さは、行動して得られる経験値が少ないからなのだろう。
