和月 "ネット怪談の民俗学" 2026年4月12日

和月
和月
@wanotsuki
2026年4月12日
ネット怪談の民俗学
ネットホラーというサブカルとして捉えられがちな題材を、学術的かつ体系的に解説した一冊。 洒落怖や2ちゃんねるに直接触れていた当事者ではないけど、まとめサイトやニコニコのゆっくり実況動画、創作に落とし込んだ有名な怪談等、今まで好んで読み漁っていたジャンルなので、とても楽しく読めた。普段あまり新書を読まないが、終始好きな分野の授業を受けているような感覚だった。 ネットホラーの黎明期から現代に至るまでの間に、因習系から異世界系へ、ナラティブを含まない曖昧な不穏さが蔓延るデータベースへとホラーの流行は着実に変化している。著者のこうした主張の中で、「因習村」概念の差別的意識について記述している部分が特に印象に残った。具体的な存在を否定するような対人的差別を伴う怪談は、たしかに前時代的だ。今新しくその系統の話を作り出そうとしても、社会倫理等の側面から炎上する可能性は大いにある。そうしたネットの空気感を含めて、バックルーム等の誰も傷付けないホラーが主流となる。時流に乗ったネットホラーの変遷を丁寧に指摘した文章は、読んでいてとても説得力があった。 「共同構築」という言葉が作中に何度も出てくるのだが、私がネットホラーに感じていた魅力の正体はこれだったのか!と腑に落ちた。物語としてのホラーは創作者が限定されるため、深い没入感があるが単一的だ。その点、匿名掲示板から生み出されたホラーは、リアルタイムで書き込んだ言葉や再媒体化を経て加えられた要素等、不特定多数の存在を経て、今の形となっている。お互いの顔が見えないネットの海で、恐怖という感情の連帯によって紡ぎ出された怪異は、ネットホラー特有の妙味がある。本書を読んでいて、改めてネット怪談の見どころを再認識できた。 何となく楽しい、何となく興味がある、というような分野をより深掘りできて、少し賢くなったように感じさせてくれる。新書の面白さに気付けた一冊でした。また気になるジャンルで探してみようと思う。
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