
ヒヨリ
@charonll
2026年4月14日
影犬は時間の約束を破らない
パク・ソルメ,
斎藤真理子
読み終わった
この人の本を読んでいるとき、日記を読んでるみたいだといつも思う。小説を読むと何かしらの感情や記憶が喚起されたりされなかったりするが、それがあんまりない。冬眠する人とそれを見守るガイドの関係のように、まったく見知らぬ相手の頭の中を覗いてしまっているような、それとも何にも分かっていないような…この不思議な感覚が印象的で、読んだ感想や内容を誰にも説明できることはないし、自分でも何を読んだのかよく分からないままなんだけど、この開かれた状態がパク・ソルメの"通気性の良さ"なのかもしれない。構成らしい構成がないという構成、記憶や出来事や感情が縦横無尽に、それこそ日記のようにとりとめなく流れていく。
日々で起きる大体のことは筋が通っていないし、びっくりするくらい代わり映えしないことも多いけど、どの登場人物もある種そういうままならない日々を思うように生きている、ように振る舞っている気がして、実際彼らはよく歩き、よく食べ、よく考えていて、よく生きている。そこが結構好きだ。
分かりやすい人生への絶望とか、感動とか、そういう剥き出しの感情にさわることがない。
でもそんなもんだとも思う。生きていて何かしらが起きる瞬間と、感情や思考が生まれ、それが「感情として感じられるまで」「思考になるまで」の間には距離があって、それを他人がさわったり見えたりすることはあんまりない。
もし彼らと私が出会っても、実際に交わせるのは「」で囲まれた、発話された部分だけにすぎない。
だから、されなかった部分に思いを馳せること。
実際、この本を埋めるのはそういう、自分や自分以外の相手、またはさまざまな出来事、物に思いを馳せる時間で、この作業こそが私たちとさまざまな人や物、空間、または時間との関係を結び直すのだと思う。
これからやること、やらないこと、できること、できないこと。
これから出会う人、出会わない人、出会った人、出会えなかった人。(人だけじゃなく)
それらすべてと平等に、地道に、ゆっくりと関係を結ぼうとするのがパク・ソルメなのかもしれない。

