
和月
@wanotsuki
2026年4月14日
スピノザの診察室
夏川草介
読み終わった
読んでいると京都の和菓子が食べたくなる!
今は長五郎餅が切実に食べたい。
エピクロスの処方箋が続編だと知って、まずは1作目を読もうと手に取った。
軟水を飲んでいるみたいにすいすいと文章が入ってくる。とても読みやすくて、筆致がやわらかい。登場人物達の言動も然る事乍ら、彼らの目に映る京都の街並みや行き交う人々の様子が丁寧に描かれていて、情景が目に浮かぶようだった。
マチ先生は、先生単体でもとても魅力的な主人公なのだけど、色んなペアが楽しめる点もこの作品の見所だと思う。
原田病院の先生達、看護師達との会話は子気味好いやり取りが楽しいし、花垣さんや天吹さんとの最強タッグも心躍る。南さんとの間で仄かに薫る関係は気になって仕方がないし、龍之介くんとの叔父甥コンビは家族と師弟と友人が入り交じったような間柄でいつまでも読んでいたくなる。こんな盛り盛りに関係性が描かれているのに、やり過ぎ感が出ないのがスゴい。
医者として苦しい経験も重ねてきたマチ先生が中心だからこそ、胃もたれしない物語に仕上がっているのかもしれない。
ペアとは味わいが異なるが、雄町先生と様々な患者さん達との診察風景もまた、本作の要となる場面だ。治らない病を抱える患者の治療をどこまで続けるか考え、時として看取りを担当する。半数の患者が地域の高齢者である原田病院を舞台に、死を目前とした人々の「幸福の在り方」について、真摯に向き合う。がむしゃらに病を治すことに力を注ぐ医療モノとは違うベクトルで、人の生死や幸せを再考したくなる物語だった。
タイトルにもあるスピノザの哲学を希望的に読み解き、無慈悲な世界に生きる無力な人間がどう生きるべきなのか、雄町先生なりの解釈を示してくれる。そして、作品を読み終えた時に暗闇の中で灯るやわらかな光が、読者にも希望を与えてくれる。大切に読み返したい一冊になった。




