@s_ota92
2026年4月18日
p35
「複数の人格を併せ持つ天才だ、と最近になって練無は気がついた。しかし、誰にも本質を見せていない可能性もある。」
p52
「「これって、モナリサですよね?」」
p56
「失われることは、悪いことではないのだ。削り取られて、そこに形が現れることだってある。万が一にでも、美しい形が生まれることがあれば、尚更だろう。その希望こそが、生きる動機ではないか。」
p59
「現在、最高の人形とはコンピュータである。人に最も近い機会だからだ。人を真似ることが、この機械を作り出したのだから、当然である。人の形に魂が宿る、と最初は考えた。それが、いつの間にか、この形が失われる。さて、「形」とは、何か?人形とは、何だろう?」
p66
「「探したんだから!もう浜名湖になって。」」
p70
「「そうそう、その話だったね。江尻駿火の最後の作品がモナリザっていうんだ。」」
p89
「泣けるものに弱い紫子である。」
p106
「「モナリザだったからだよ。」」
p110
「私は、瀬在丸紅子だ。何をそんなに怒っている?戦う相手は誰だ?」
p119
「人形を見せているわけではない。人形を操っている人間を見せているのだ。」
p153
「「悪魔、いや……、神様かもしれん。」」
p155
「夫を殺したのは、神様だった、いや、あれは白い手の悪魔だった、と興奮して語った。」
p159
「練無は炭酸飲料を少しずつしか飲めない。」
p161
「練無はラムネを飲み干した。」
p168
「「どんな悪魔だと?何かもっと詳しいお話はありませんでしたか?」「ええ、人間よりも大きくて、頭だけが馬だって。」」
p178
「「トランプしようか。」」
p185
「二年まえの岩崎亮殺害に使われたナイフは、もともとは二本組だったもののうちの一本で、もう一本は、事件以来、行方不明になっていたらしい。」
p199
「「ああ、可笑しい、もう……、何だって、そんな格好してくるのよ……。ああ、私、今夜ほど深く傷ついたことって、過去に一度しかないね。」」
p201
「そうか、大人になってもやっぱり、誰かが誰かを泣かしているんだ、と彼は思った。」
p205
「「目が痛いからって、自分で外したんだよ。お酒につけておけば、汚れが取れるし、あとで目にも良いんだって主張していたけど。」」
p212
「「悪魔退治、魔女退治のために作られた短刀。そう聞きました。どんなものなのか、私も実物を見たわけではありませんから……。」」
p214
「「いいないいなぁ。美人は何しても、誰も怒らへんもんなあ、くう!」」
p223
「ネクタイは紅子の知らないものだった。」
p224
「「何を作っているのですか、とおききすると、人形だ、とお答えになる。どんな人形なのですか、ときくと、モナリザだ、とおっしゃる。」」
p225
「「江尻先生は、私の絵に、落書きをされました。」」
p235
「「所有したい、よりも、知りたい、の方がより人間的だ。」」
p235
「一つのために、千を所有し、その一つが、不確定ゆえに、千を生かしている、のではないか。」
p240
「「身の丈三メートルほどで、頭が馬で、躰が人間、だそうです。」」
p252
「「魔女だからです。」紫子が答える。「ええ、そうね。」紅子がにっこりと微笑む。「今の意見が、今までで一番素敵。」」
p253
「「またかいな。大人はええよなぁ。お子様は毎晩トランプやもな。」」
p254
「空気は若い哲学者の手のように冷たい。」
p256
「いつの間にか、生きていた。」
p263
「「人気が嫌いでね。子供のときから、大嫌いだった。親父が沢山持っていた。そのどれもが不気味で、恐かった。グロテスクで、何か邪悪なものが潜んでいるような気さえした。でも、大人になってみたら、人形なんかよりも、ずっと……。」「人間の方が恐かった。」紅子がさきに言う。」
p264
「「何かを恐れていたい、何かを恐れていれば、それよりも恐ろしい状態にはならない。どこか痛いところがあれば、他に痛いところを忘れることができる。あらゆる原始宗教の起源が、そこにある。だから、恐ろしい恐ろしいと祈り願って、人々の恐れを人の形に閉じ込めた。人の形ほど恐いものはない。どんな形よりも恐い。それを創ったからこそ、自らへ向けられる恐怖に、人間は耐えられる。鏡を見続けることができる動物は人間しかいない。自分の形が恐ろしいことを、呪文によって封印したのです。」」
p279
「デートに遅れた事は一度もない。」
p288
「真っ白な顔が浮かび上がる。」
p289
「「モナリザね?」」
p290
「光を見た。闇を聞いた。目は拡散の七彩に霞み、耳は攪乱の七音に靡く。手は懐疑の七宝に触れ、指は回避の七生を待つ。人形の目がくるくると回る。」
p292
「スカートは、七夏はミニ、紅子はロング。髪もショートとロング。」
p305
「自分は人形かもしれない、と一瞬思った。見えない糸が、空の彼方から、宇宙の彼方から、自分を操っているのかもしれない。」
p311
「小さい頃から、そんな孤独にはすっかり慣れている紅子だった。」
p312
「「そもそも、どうして、私はこの世に生まれてきたのかしら。どうして、貴方のような男と結婚なんてしたのかしら。誰が私を騙しているの?どうして誰も白状しないの?」」
p316
「「岩崎夫人に聞いてみたが、彼女が知っている限りでは、そんな入れ物になっている人形は、二つしかないそうだ。つまり、金と銀のナイフを入れる人形二体だけってことになる。」」
p323
「「林のためなら、息子を殺すことができます。覚えておいてね。」」
p327
「紅子は笑っていた。」
p338
「「血湧き肉躍るのが好き。」」
p339
「「もう、最高!どうして、ロバってこんなに可愛いのかしら。」」
p341
「「紅子さんを騙そうとしているのは、紅子さんですよ。」」
p344
「「普通は、相手は他人、特に警察を騙す。それが偽装の目的になる。そのためのトリックを殺人者は考える。保身のためにね。でも……、この事件では、そうじゃなかった。犯人はね、自分がやったことではありませんって、神様や悪魔を騙そうとしたの。もちろん、そんな実態はこの世にはないわけだから、換言すれば、そう、それはつまり、自分を騙そうとしただけのことなんだけど。」」
p347
「「誰にも言わないって約束して。それに、確かめようとしないこと。いえ、確かめる必要なんてないわね。私が真実だと言ったら、真実なのよ。」」
p351
「「うん、逆のように見せて、あれは、本来の操り人形だった。」保呂草が言う。「人形遣いが前面に出ていただけだ。」」
p351
「「これは、一般論だけどね。最も困難な問題。最も複雑そうに見える問題を最初に解決すること。もしも、本気で問題を解決したいのなら、それが最も近道。どうしても、簡単な問題に逃避してしまうの。小さな問題を解決しても、それは前進に寄与しないことが多い。保呂草さん、私、貴方にお話ししているのよ。」」
p353
「「ね、言葉ってこんなに簡単なんだ。現実がどんなに複雑で、それぞれの、そのときそのときの想いとか感情とかが、どんなに深く絡まり合っていても、どろどろの利害がやらしく交錯していても、合理的な理解なんて無力に等しくても、とにかく、言葉で言うことだけは、いつも簡単なのよ。誰がどこで何をした。それだけ。子供だって言えることなの。」」
p354
「「自分は単なる人形に過ぎない。自分の意識の外に、本来の意志がある。自分の内の意志を忘却し、消去して、外側に虚構の意志を造りあげる。保呂草さんの言ったとおり、これがすべての宗教の基本原理かもしれない。そう信じることで自分を保持する。自分を生かす。そうしないと、保持できない。生きていけない。それが人間の脆弱さであり、柔軟さでもある。」」
p357
「「それを忘れないで。言葉だけのことなの。全部そうなんです。言葉で理由をつけて、どんなふうにでも変えてしまえるの。言葉こそが、悪魔であり、神であり、私たちの罪でもある。でも、そこにしか、真理はないのよ。」」
p360
「「今なら、誰も見ていない。首を絞めてみます?」保呂草の胸に顔を埋め、紅子は囁いた。「私、黙っている。いいのよ、もう一度やっても。気が遠くなる瞬間って、意外に気持ち良かったもの。」」
p361
「「二人っきりで馬車に乗って、ロバさんの国を冒険する仲。ほら、見て、あの子が一番可愛いの。」」
p361
「「あれは、よくできたマトリクスです。ああ、そうそう、絵のタイトルにも、確か『子宮』ってついていたでしょう?つまり、マトリクスなんですね。あれが、千体の人形の順番、それとも並べ方を示しています。」」
p362
「「千体といわれていますが、実際には、三十五行で三十列の千五十体です。」」
p366
「「ときどき、ぞっとするほど、貴方は優しいわ。」」
p368
「二人は短い接吻をした。宇宙の歴史に比較すれば、すべてが短い。」
p368
「「ときどき、紅子さんはぞっとするほど恐い。」」
p368
「「今のキスで、最後ですか?もう、一生会えないのかな?」」
p371
「「だって、なんたって、顔がロバですからね。身の丈が三メートル。そういえば、作り物の樹の枝に何かいませんでしたか?」」
p372
「「覚えておいて……。私よりも早く、何かとっても素敵なことを思いついたときは……。」」
p381
「「これが、モナリザか。」」
p385
「「人形のマトリクスだね。」」
p386
「人形の一体一体の色の違いが、一つのビットとなって、全体で絵になっているのだ。モナリザだった。」