にっかり青江 "方舟" 2026年4月20日

方舟
方舟
夕木春央
定石を覆す、初めての読書体験  これまで様々なミステリ小説を読んできて、大体のパターンはすでに経験したと思っていた。しかし、「まだこんな手があったのか」と心地よく打ちのめされた。  本書は王道のクローズド・サークル物。昔、綾辻行人さんや島田荘司さん、我孫子武丸さんなどの作品を夢中で読んでいた頃の懐かしい雰囲気も感じられ、上質な謎解きへの予感に高揚しながら読み進めることができた。  登場人物の背景があまり深掘りされず、さらっとしているため読みやすい。反面、キャラクターの魅力はやや薄い気はする。しかしそのおかげで特定の人物に感情移入しすぎることなく、全員をフラットに疑うことができ、純粋な「思考ゲーム」として楽しむことができた。  事前に「読後感はあまり良くない」という噂を耳にしてはいたが、個人的には心配するほどではなかった。 舞台の性質上、終盤はどうしても一気に駆け足となり、突然の終幕に困惑してしまったのは事実だ。だがそれ故に、犯人の行動理念や描かれなかった思いなど、想像する余地が残されている気がする。悪い後味を引きずるというよりは、むしろ「あの時のあれは……」と、さらなる考察欲を掻き立てられた。  しばらく時間をおき、結末を知った上でもう一度、最初から伏線を拾い集めながら再読してみたい一冊だ。
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