きなこ "帰れない探偵" 2026年4月23日

きなこ
きなこ
@kinako2025
2026年4月23日
帰れない探偵
帰れない探偵
柴崎友香
探偵業の主人公は、10年ほど前から自国に帰れなくなっていた。国を出る時は予想していなかったが、大災害をきっかけに国の体制が変わり、パスポートも変わった。国は海外滞在者に帰国を促したが、再度の出国ができるか不安な主人公は帰国をしなかった。それ以来、依頼を受けた場所へと移動を続ける生活を送っている。 坂の多い街では、自分の事務所に帰れなくなった。事務所が入っているビルに続く路地がいくら探しても見つからない。それからその街では依頼者が提供してくれた部屋、あるいは深夜営業の店などで過ごすようになった。 またある時は雨の多い街、ある時は白夜の街、砂漠に囲まれた街等で仕事をする。 最後に訪れたのは、主人公が生まれ育った街。そこで彼女が見たものとは? 作者の柴崎友香さんは大阪府出身だし、主人公と友人との会話が大阪弁だし、最後のシーンの舞台は関西国際空港だよねと思うなど。 雑誌の書評欄で見かけたこの小説、当たりだった。 主人公が訪れる街のモデルはどこだろうと想像しつつページをめくる。それぞれの土地では特有の風景があり食べ物があり気候があり、そして歴史がある。 依頼人からさまざまな仕事を受けながら、彼女は探偵という仕事についてや、自分が離れた故郷と友人を思う。 2025年6月発行なんだけれど、小説の中の状況が、今の日本社会のようで、予言小説かと思ってしまう。 少し長いが引用する。 ーーわたしが生まれたその国は、わたしが生まれ育った街の空港から飛び立った一年ほどあとに大きな災害に見舞われた。直後に非常警戒態勢が発令され、人々の移動と通信が制限された。(中略)その翌年、今度は新型ウイルスによるパンデミックが起きた。世界中で人の行き来が制限され、混乱で他国への関心が薄れる中、その国の議会では統治体制が変わったことが宣言された。クーデターでもなければ政府が倒されたわけでもない。権力の委譲は前から決まっていた事項のように粛々とすすんだ。目立った抗議活動も起きなかったし、暴力事件が起きている様子もなかったから、他の国々は「推移を見守る」というような曖昧なコメントを出しただけだった。続けて、新しい体制は、国際的な条約や機関からすべて脱退すると発表した。ーー そういう中でゲリラライブをしようという友人たちと、警報音に従わず外へと出ていく人々。 「ここにいる」「戦うために」そう歌う声が聞こえたなら、未来に光がさすと信じる。
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