

きなこ
@kinako2025
三度の飯と本が好き
- 2026年2月18日
光と糸ハン・ガン,斎藤真理子読み終わった最高韓国文学一気に読んでしまうのがもったいなくて、毎晩寝る前に少しずつ読んでいたのだけれど、とうとう読み終わってしまった。 斎藤真理子さんの「訳者あとがき」を読むと、よりいっそうハン・ガンの作品を理解することができる。 ハン・ガンの作品は、韓国の負の歴史を描いたものが多いので、読みすすめるには勇気と覚悟がいるのだけれど、それでも心を落ち着かせ安らかにしてくれる作用もあるので、心がざわめいた時に、ハン・ガンの文章を欲する時がある。 この本は小説ではなく、講演内容や詩、植物観察日記等のバラエティに富んだ作品を収録していて、さまざまななハン・ガンを感じることができて嬉しい。 ハン・ガンの作品をこれからもずっとかみしめ味わいながら読んでいきたい。 - 2026年2月15日
女のくせに中平文子読み終わった大阪工業大学知的財産学部水野ゼミの出版プロジェクトにより出版された珍しい本。大正時代に生きた女性の手によるもので、彼女の離婚、子どもとの別れ、女優に挑戦、新聞記者になってさまざまな記事を執筆する様子が書かれている。時代が時代だけに、社会の女性に対する考え方は、現代社会から見ると驚きを禁じ得ない部分もあるが、当時の社会の様子を知るという点では興味深い内容だった。しかし彼女は女性でも恵まれた立場にいる人で、庶民の女性はもっと大変な生活だったのだろうと思うなど。 - 2026年2月11日
また あえるよユン・ヨリム,わたなべなおこ,アンニョン・タル読み終わった韓国文学大好きな絵本作家アンニョン・タルさんが絵を描いていたので読んだ。 やっぱり彼女が作るお話ではないと感じた。 母と子(息子)との繋がりの強さ、母の無償の愛についてのお話なのだけれど、うーん、あまり共感できなかった。 アンニョン・タルさんの絵はほんわかしていいのだけれど、彼女の作るちょっと不思議なお話だからこそ活きる絵なんだと思う。 またアンニョン・タルさんの新刊が読みたい。 - 2026年2月11日
脚のない鳥カン・ソッキョン(姜石景),松渕優子読み終わった韓国文学慶州の図書館で司書として働くヨンソ。 ある日、造園学科の元教授の蔵書を引き取りに行く業務を請け負う。 南山の目的地に到着すると、蔵書はみすぼらしいコンテナの中にぎっしり詰まっていた。 家族と離れ、一人で2000冊以上の専門書に囲まれて過ごしていた元教授は老衰のため入院していた。 本を愛する気持ちは理解できるが、自宅内が本に侵食されていく過程は我慢できない。そんな私は本当の愛書家ではないのかもしれない。ここに登場するヨンソの夫や同僚のキム係長を見ているとそう感じる。 老教授のように、自分が倒れると家族に迷惑がかかると思ってしまう。 ヨンソが夫に言い放った「お墓には何にも持っていけないんだから」というのはその通りだとも思うし。 小説の中に出てくる香港の俳優レスリー・チャンや、彼が主演した映画『欲望の翼』、そしてヴィム・ベンダース監督の『ベルリン・天使の詩』など懐かしさ満載で、胸に沁みた。 そしてラストもいい。 色々と手放さねばならなかったヨンソだが、自身の内に積み重ねていた記憶は色褪せず、再び輝き出すのを待っていたと解釈したので、希望が感じられた。 - 2026年1月29日
本でしたヨシタケ・シンスケ,又吉直樹読み終わった考えさせられるヨシタクシンスケさんの絵本が好きで、彼の本はなるべく手に取りたいと思っている。 『その本は』で小説家の又吉直樹さんとコラボ。その第二弾がこの『本でした』。 とある貧しい村に流れてきた2人の男は、空き家だった崩れかけた小さな本屋に住みついた。糊口をしのぐために、本の復元をすると言い、村人たちの依頼に次々と復元していった。しかし徐々に復元のスピードが落ち、本の復元依頼シートが溜まっていき......。 本好きには堪えられない内容だと思う。最初の方の復元内容は軽めで、こういう楽しむ系の本なのかと思いつつ読み進めていくと、整理番号27番の「主人公が本が好き」という本の復元依頼にたどり着く。 その内容が、一冊の小説に匹敵するほどの内容の濃さに不意打ちをくらう感覚だった。 本が好きな人もそうでない人も、ぜひ手に取ってもらいたい。 ああ、本があってほんとうに良かった。 - 2026年1月28日
うみべのストーブ 大白小蟹短編集大白小蟹読み終わった考えさせられる平凡な日常にするりと入り込んできた非日常。 設定はありえないと思いつつ、読むほどにその設定が馴染んでいく。 しゃべる電気ストーブに、透明人間になった夫、現れた雪女。 掲載されている七篇はどれも淡々と展開するが設定は普通ではなく、そのバランスが心地良い。 どれも心に染みるのだけれど、特に好きなのは「雪子の夏」「雪を抱く」「海の底から」 登場する女性たちの気持ちが分かりすぎて辛いくらい。 - 2026年1月28日
それでも旅に出るカフェ近藤史恵読み終わった『ときどき旅に出るカフェ』の続編。 コロナ禍の影響で、働き方はリモートワークになり、飲食店などの営業が難しくなっていた。 カフェ・ルーズは「しばらく休業します」の札をかけたままになっている。円の行方を案じる瑛子だが、円のルームメイトから意外なことを聞く。 コロナ禍真っ最中の時から、徐々に落ち着いてきた頃までの期間のカフェ・ルーズとそこにやってきた客たちと、彼女らにまつわるケーキのお話。 人間関係は難しい。それが家族や親友という近しい人たちだったらなおさら。 そしてこの社会はまだまだシングルの女性が生きづらい。 そんな世の中だけれど、居心地の良いカフェと美味しいケーキと、シスターフッドがあればなんとか前を向いて歩いていけるかもしれない、そう思わせてくれるお話。 - 2026年1月24日
ときどき旅に出るカフェ近藤史恵読み終わった元同僚の円が開いた心地よいカフェ・ルーズ。 たまたま自宅マンション近くにあった縁で、足繁く通う瑛子。 そのカフェのコンセプトは旅に出られるカフェ。 メニューにはコーヒーや紅茶、カフェオレ、オレンジジュース等に混じってミント水、ざくろ水、クワス、ハーブレモネード、杏ネクター、カフェ・マリアテレジア等、瑛子が今まで出会ったことのないようなものが並んでいた。飲み物だけでなくお菓子もストロープワッフル、シナモンプッラ等、同様に見慣れない名前が並ぶ。 それは様々な国に行き、研究し、作り上げた円の努力の賜物だった。カフェで見知らぬものを飲んで食べて、未知の世界へと心を羽ばたかせることができる。 カフェ・ルーズで円と瑛子と常連、あるいは一見さんたちが繰り広げる物語。 甘党の私にとって魅力的なお菓子の登場に、ワクワクしつつ、ストーリー展開にドキドキしながら読了。 こんなカフェが近くにあったら私だって通いたい! 読後感はほっこり。続編も続いて読む予定。 - 2026年1月22日
わたしたちの停留所と、書き写す夜キム・イソル,小山内園子読み終わった考えさせられる韓国文学読む本読む本、大当たりの今月。 この小説も素晴らしかった。 主人公は40代の詩を書く女性。 詩を書くことが自身のアイデンティティである彼女が、突然幼い子どもを連れて実家に戻ってきた妹との生活によって一変する。 その日から三歳と生後一ヶ月の赤ん坊の世話は主人公に担当になり、妹と両親は外へ仕事に出ることになった。 日々切れ目なく続くケア労働。感謝されず当たり前のように捉えられるそれにがんじがらめになり、主人公は疲弊する。 しかし自分以外の家族は賃金労働者である。だんだんと発言権がなくなり透明化してしまったと感じる主人公。そんな彼女をあの人は待ち続けると言う。 主人公の焦燥も空虚さも理解できるからこそ、彼女の行動に共感し拍手喝采をしたくなる。 文章を読むこと、書くことが好きな人にとって、心が満たされ忘れられない小説になるのではないだろうか。 - 2026年1月21日
ほんのかすかな光でもチェ・ウニョン,古川綾子読み終わった韓国文学(あ、チェ・ウニョンさんの新刊出てるわ) ネットでたまたま見かけたので、手に取った。 だから内容についてはまったく知らないまま読んだのだけれど、これが大正解。(キム・チョヨプさんの小説に続き!) 七編が収録された短編集で、どの作品も甲乙つけ難いほど胸を揺さぶった。 シスターフッドを予感させながら、すれ違っていく歯痒さや、相変わらずの家父長制によるDV被害、時代による被害を受けた主人公の心の孤独等、こうすれば解決するといえない状況ばかりで読んでいて苦しかった。 しかし著者が「作者の言葉」で語っているように、 「人生はいつだって現在進行形で、誰も代わりに解決できない問題を解きながら一歩ずつ進んでいくだけだ。 欠乏感を抱きしめ、それを必要以上に憎んだり、哀れんだりすることもなく、ただ一日一日を生きていく。悲しければ悲しいのだと、腹が立てば腹が立っているのだと、愛していれば愛しているのだと気づき、自分を見守り続ける。私は今、そういう作業をしているところなのだと思う。」ということだと思う。 「日本の読者の皆さんへ」はこう言って締めくくられている。 「今この文章を読んでいるあなたが寂しく悲しい思いをしているのなら、それは永遠ではないと伝えたいです。すべては通りすぎていくし、あなたはもう少し温かくて明るい場所に進むだろうと。本でつながった私たちの特別な縁に感謝します。」 - 2026年1月19日
地球の果ての温室でカシワイ,カン・バンファ,キム・チョヨプ読み終わった最高考えさせられる韓国文学最近キム・チョヨプさんのエッセイを読んで、この小説も読みたくなった。その結果は......。 大正解! 彼女の作品はどれも好きで、特にデビュー作の『わたしたちが光の速さで進めないのなら』が一番推しだったのだけれど、それを超えた。 いつも通りの科学的要素が満載の作品だけれど、その中を漂う人間くささというか、登場人物たちの関係性が切ない。 サイボーグと人間とのシスターフッドの関係や、地球の滅亡の前に尽力した名もなき人たちの努力とか、作者が思っていることが豪速球で伝わってきて胸が震えた。 レイチェルからアヨンに宛てたメールにそれが凝縮されている。 p356 「人類はこれまで、どれほど人間中心の歴史ばかりつづってきたのでしょうか。植物に対する認知バイアスは、動物としての人間に備わった久しい習性です。わたしたちは動物を過大評価し、植物を過小評価します。(中略)わたしたちはピラミッド型の生物観にしばられています。植物と微生物、昆虫はピラミッドの下部に過ぎず、人間以外の動物がその上、人間はピラミッドの頂点にいると考えます。完全に間逆にとらえているわけです。人間をはじめ、動物は植物がなければ生きていけませんが、植物は動物なくしていくらでも繁栄させられるのですから。地球という生態において、人間はつかの間の招待客にすぎません。それも、いつでも追い出されうる危うい立場にあります。(後略)」 近未来にダストという殺人霧が発生した時、人々がとった選択は、ドームに篭るということだったが、そこに入るためには、社会的弱者を切り捨てることが当然という社会だった。 ダスト発生原因を作った研究所は知らぬ顔をし、いよいよ人類滅亡か?の瀬戸際にようやく重い腰を上げる。 結果再建した世界では、それらの人々が英雄に祭り上げられているが本当にそうだろうか?いつの世も英雄の名前だけが歴史に残るが、本当は名もなき市井の人々の弛まない努力があったからではないか? これは小説の中だけでなく、現実社会でも当たり前にある事実。 何が真実か?事実から導かれる真実を見極める眼を養っていきたい。 - 2026年1月16日
- 2026年1月10日
ソウル 気になるミュージアム大瀬留美子読み終わったソウルには180近くの美術館があるという。その中から著者が選んだ19館を紹介している。(京畿道、仁川のものも含む) ソウルを旅した時に、たまたま私の好きな画家の展覧会があって見た時や、展示会のタイトルに惹かれて入った美術館と、数回しか行ったことがなく、次は美術館メインの旅行をしてみたいと思って読んだ。 著者の感想もあるが、ただ訪問しただけでは知り得なかった情報もあり、なかなか読み応えがあった。 - 2026年1月7日
天までのぼれ中脇初枝読み終わった最高考えさせられるネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。 用事があって行った某市立図書館で偶然手に取ったパンフレットに紹介されていた本。 楠瀬喜多という名は覚えていなくても、女性に選挙権がないのはおかしいと、税金を納めるのを拒否したという人物がいたということは、新聞記事で知っていた。彼女についての小説だということで読むのを楽しみにしていた。 作者は私の好きな中脇初枝さん。面白くないわけがない。 久しぶりに小説を読んで泣いた。しかも何度も。嬉し涙であったり、悲し涙であったり。 特に喜多が幼なじみあやめの死を知った時、当時の議員に女性もなれることが決まった時、そのために喜多が男性ばかりの議場で自分の意見を述べた時、涙が溢れてならなかった。 今は女性も投票が出来るし、議員に立候補も出来る。この当たり前が実現するまでに市井の女性たちの苦労がどれだけ続いたか。頭が下がると同時に、自分もまた先達となるのだと気が引き締まる。年が明けていきなり今年のベストに入るような本に出会えた喜び。今年もたくさん本を読もうと決意する。 - 2026年1月5日
戦争みたいな味がするグレイス・M・チョー,石山徳子読み終わった考えさせられるp7「家族史を理解するために調査や執筆をおこなうことは、家族への恥辱という支配からみずからを解放し、恥辱そのものが、抑圧された人たちを沈黙に追いやる政治的な手段であることを理解するための、第一歩になった。」 この文章は、私に直球で届いた。 戦争は、性被害は、一人の人間の一生をこうも深く長く蝕み続けるのか。 大阪で生まれ、韓国で育ち、朝鮮戦争後に米国人の夫とアメリカに渡った一人の女性の人生を、彼女の娘が綴る。 なぜ彼女は総合失調症になったのか。 人種差別に女性差別。 故郷の味を求めても、なかなか手に入らなかった時代。食はその人のアイデンティティであり、生きてきた印でもある。体と心に染みついた味は決して消え去ったりしない。 私がフィンランドに旅行に行った時のこと。フィンランド料理はそれほどクセがなく、日本人の私の舌に合った。しかし数日経つと私の舌は無性に出汁を欲し始めた。出汁が飲みたい。急な欲望に驚きながらも切実な思いはどうすることもできなかった。私の場合は数日で帰国し、出汁を味わうことができたが、それがずっと続いたら......。 朝鮮半島の分断の原因に日本も無縁ではない事実。 様々な思いを抱きながら読了。 - 2026年1月1日
「なむ」の来歴斎藤真理子読み終わった韓国文学尊敬する翻訳家 斎藤真理子さんのエッセイ集。彼女があとがきで言っているように、まるで「寄せ植え」のような本。本人は謙遜して少々自虐的にそう説明しているのだけれど、多種多様な植物が植えられている、読者にとって心に栄養満点の書籍なのだと思う。 彼女が沖縄にも住んでいたというのは、確かハン・ガンの『別れを告げない』の訳者あとがきで読んだような気がする。小説の舞台の一つである済州島の方言を日本語訳にする時に、最初は沖縄方言にしようかと思っていたとあったと思う。(現物が手元にないので確認できずうろ覚え) その沖縄在住時の色々も書かれていて、作者の胸に刻まれた記憶の重なりを読んでいて、沖縄戦の壮絶さを思い、胸が詰まる。 私が全く知らなかった作家、作品、詩、それから知っていても作品を読んだことがなかった作家など、数多くの文学に関する情報に溢れていて、読みながらうれしい悲鳴をあげる。 あとがきに書かれている彼女の復刊された詩集『ただ一つの雪片』(단 하나의 눈송이)は手元にあるのだが、まだ読めていない。今年こそ挑戦したいが......。 斎藤真理子さんの中に積まれた数々の知識がご褒美のように提供されていて、胸を高ならせながら読了。実り多い歯応えのあるエッセイで満腹満腹。 - 2025年12月26日
本と偶然カン・バンファ,キム・チョヨプおもしろかった読み終わった韓国文学p38 「詰めこんでいればいつかは」では、彼女はデビューしたばかりで、自分がアイデアが尽きたのではないかと不安になる。「アイデアは降って湧くものではないかと思っていた時期があった」が、そんな作家もいるが自分は違うと彼女は気がついたという。「材料を漁り、かき集め、収集する。そして、集めた材料を余すところなく使って文章を書く。」それが自分の書き方だと気付いたというところに大いに共感した。キム・チョヨプ氏が言うように、アイデアが溢れてくる作家もいるだろう。しかしそれだけではなく、あれだけ惹かれる小説を書く彼女がコツコツと材料を集めて書くタイプの作家だと知ることができて、親近感を覚えた。 彼女がアイデアノートを参考に小説を書こうとして設定を考えていても齟齬があることに気づくと筆が止まってしまうという。 「そのころになって、想像力と知識は別々のものではなく、緊密につながり合っているのだと知った。知識がないから、想像力も及ばないのだ。」その通りだよな。 「大学時代を通じて学び親しんだ科学知識は、作品世界の一部を構成するにすぎなかった。それとなくごまかそうとしても、ほんの一行でもつじつまの合わない部分があれば、読者の胸に作品全体への疑念が湧くかもしれないのだから、これは一大事だ。」共感の嵐。 「わたしのなかで文章を書くことは、作家の内にあるものを引っ張り出すといより、自分の外にある材料を集めて配合し、積み上げていく、料理や建築にちかいものにかんじる。学び、探検すること、なにかを広く深く掘り下げること、世界を拡張すること。これらすべてが、わたしにとっては執筆の一環と言える。」ここの部分も私に力を与えてくれた。 p173 私が韓国の作家の中で一番好きな人物がチョン・ソヨンさんなんだけれど、なんとキム・チョヨプさんも彼女から大きな影響を受けたという。 チョン・ソヨンさんの「入籍」とキム・ボヨンさんの「地球の空には星が輝いている」について以下のように言っている。 「二つともとても抒情的な短篇で、衝撃的で美しいシーンを含んでいる。私はこの二篇に一目惚れした。恋をしてしまった。(中略)短篇を書くとき、強い抒情性、劇的な感情があらわになるシーンを最も大事にしている。この点においてはチョン・ソヨン、キム・ボヨンのお二人から大きな影響を受けたと思っている。」 自分が好きな作家が、好きな作家へと影響を与えている事実は、読者にとってこの上もない幸福だ。 - 2025年12月19日
研修生多和田葉子おもしろかった読み終わったp67 「たわいもない会話でも、言葉を交わすことで人間に触れた感触があった。表現したいことがあってそれを伝えるというよりは、言葉で空気をふるわして、その振動が相手に伝わることで、同じ空間に存在しているという実感が持てるのだった。」 p78「市民図書館は文字というおいしい食べ物に溢れていたが、命を落とす危険は少ない場所であるように思えた。」 508ページの長編小説。 作者を彷彿とさせる主人公が、1980年代にドイツのハンブルクの書籍取次会社で研修生として働き始める夏から冬にかけての物語。 初々しい研修生の、慣れない職場で出会う人々や町で出会った人々との交流やいざこざなどが日常生活と共に書き込まれていて、読むほどに読者の私も当時のハンブルクの町に放り込まれ、主人公を眺めながら暮らしている気分になる。 言葉に関心の高い作者らしく、ドイツ語や日本語から想起するイメージを膨らませていて読んでいて楽しい。 - 2025年12月11日
月収原田ひ香おもしろかった読み終わったやっぱりこの人の小説にはハズレがない。 いつも一気に読ませる面白さ。 タイトルの通り、女性の「月収」にまつわるお話。月収が4万円、8万円、100万円、300万円、17万円の女たちと、月に10万円を投資する女が登場する。 それぞれその収入でどうやって生活しているのか、どう生きてきたのか、またこれからどう生きるのかの物語。それぞれの女性たちが出会ったり、すれ違ったりと、まるでウォーリーを探せ状態で、「あれ、この人は前の章で主人公だったけど、この章ではただの客だなあ」なんて発見しながら読むのも楽しい。 - 2025年12月5日
冬虫夏草梨木香歩読み終わった最高『家守綺譚』の続編。いなくなった飼い犬ゴローを探しに鈴鹿の山に入る綿貫。 さまざまなな土地を訪れ、土地の人々に(人以外にも)出会う。その土地ごとにある文化や歴史、食物と言葉が散りばめられていて、読者も綿貫と一緒に明治の山村を旅している心持ちになる。 山奥の村に住む人々は人懐こく、見知らぬ顔に声を掛けて茶を飲め泊まっていけと誘う。時代といえば時代というか、現代と比べて懐が深いと感じた。が、それはいい面であって、違う面ももちろんあるのだろうが。 人間にも動物にも物怪(もののけ)にも、相手の立場にたち、気持ちを慮る綿貫の心の清涼さに打たれる。 綿貫シリーズをもっと読みたい。
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