和月 "PRIZE-プライズー" 2026年4月24日

和月
和月
@wanotsuki
2026年4月24日
PRIZE-プライズー
面白い!そして作品の推進力がすごい! 太宰治の『駆込み訴え』を読んだ時の、息をもつかせぬ狂気と渇望の気迫を思い出した。あの感覚が好きな人はめちゃくちゃ楽しめると思う。 直木賞を絶対に獲りたい作家の話。担当編集者の視点から物語が始まり、喜怒哀楽の激しい作家に振り回されながら賞レースに挑む展開なのかな……と読み始めると段々雲行きが怪しくなっていく。これってなんかヤバくないか?と読者が徐々に不安になりだしても、作家と編集者の二人三脚は止まらない。直近で読んだ本の影響もあり、途中からは宗教に盲信していく信者はこんな感じなのかもと思った。そして終盤、とどめの一撃をくらった時は思わず天を仰いだ。 加速度的に結び付きを深くしていく欲望と、膨らみすぎたそれが弾け飛ぶ瞬間。想定していても尚、くらくらする読書体験だった。 また、出版業界の様々なネタが仕込まれているのも面白い。新人作家が勘違いしやすい所等は想像しやすいけど、大物になってくるとそこまで経費で落とせるんだ?!みたいな驚きもある。ここまでお金の動きを赤裸々に描写した作品もあまり無いだろうな、と思う。芥川賞直木賞の審査方法についても細かく書かれていて、面白かった。オール讀物の編集長や直木賞の審査員には、確実にこの人がモデルだろうなというキャラクターもいて、調べて読むと一層楽しい。 天羽カインの存在も本当に魅力的だ。彼女はただ厄介な人ではなく、認められたい、褒められたいという衝動に突き動かされてしまう女性。読者想いのサービス精神旺盛な作家であると同時に、アダルトチルドレン的な要素も併せ持つ人。その危うさや純粋さ故に周囲に畏怖されたり心酔させたりしてしまう。この絶妙な人物が中心の物語だからこそ、惹き込まれるのだと思う。 天羽の他に編集者達の視点も交えて話が進む中、一つの会話に対してそれぞれの受け取り方が全く異なる場面がいくつかある。何気なく放った言葉が悪意として受け取られたり、意味のある叱責が虫の居所が悪いと捉えられたりする。こうした対人関係における相互理解の難しさが、とてもリアルな描写で心に残った。 時折そっと玄関に置かれた新鮮な野菜を食べながら、軽井沢の自宅で執筆に勤しんでいる天羽カインの姿がありありと目に浮かぶ。 欲望って言い換えると生きるパワーで、作家としての欲望に邁進する彼女の姿には元気をもらえる。ちょっと食らうところもありつつ、出会えて良かったと思える作品だった。 (追記) 本屋大賞ノミネート記念の「PRIZE PRESS」に載っている石田三成の連載コラム(実話)が本当に抱腹絶倒なので、本作を読み終えた人は是非とも読んでください!!!
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