
メジロ大好き
@2754natsuki
2026年4月25日
正欲
朝井リョウ
読み終わった
正しさ、まとも、多数派、常識。そのどれも明確な基準はなく、そうなるとマジョリティ側の大衆が思い描く大まかな輪郭でしか象れない。そんな大まかな輪郭から弾かれた人。そもそも最初から輪郭にすら触れられない「正しい」の梯子を外された人。
地球上に生命体として「生きる」状態であるためには、他者との繋がりが時として命を引き留めてくれる。一方でその多数派との繋がりにより少数派との相違点が浮き彫りにされ、その異常性を大多数の指摘によって引きずり出され傷つく可能性もある。そんな人々を受け入れる社会を作ろうと、多数派の傲慢な活動で振りかざされる「多様性」という軽薄で便利な言葉。
多数派が構築した正しい価値観の社会で日々思い知らされる、少数派が自認している己の異常性による苦しみ。受け入れなくていい。自分が多数派に理解されないことは、自分が一番理解しているから。ただ、放っておいてほしい。干渉しないでほしい。自分の居場所さえ奪わないでくれたら、それだけを許してくれたら、あとは勝手に生きるから。「明日、死にたくない」とすら思えないマイノリティの、さらに極致にある人の生きづらさが描かれている。
はじめは点で孤立した存在の登場人物たちが、それぞれ違う世界の正欲に振り回される「しっくりこない」生き方で進んだ先に、一つの事件へ集約していく過程は背筋がゾクゾクする面白さ。この先は袋小路しかないと分かっていながら突き進むような、なのに止まることを許してくれない物語。読んでいるときの、肺腑に水を注がれるような息苦しさは「正欲」でしか味わえない読書体験だった。


