
うゆ
@otameshi_830
2026年4月29日

くもをさがす (河出文庫)
西加奈子
読み終わった
待望の文庫化!
数多いる作家にはそれぞれそれを書かずにはいられない固有のテーマがひとつずつ(人によっては複数)あるように思う。西加奈子の場合は「自分の体を、自分のものとして取り戻す」。じゃないかな。自分の心を、自分の信じるものを、自分の怒りを、自分の歓びを、自分の欲望を、自分の魂を。
今作は乳がんが見つかってからの日々を書いたものだが、そこはさすがの西加奈子でがっつりと硬派なノンフィクション文学に昇華している。「ノンフィクション」と「ノンフィクション文学」は違う。後者はあくまで作家の手により創作されたもの。書くこと、書かないことは選択されひとつの作品となる。そしてそこでは西加奈子のワンテーマがやはり鳴り響いている。
だが、乳がん治療のなかで、
じゃあその「自分」とは一体何なのか?
というもう一歩先の深淵まで進んでしまう。
今作を単行本で読んだXのフォロワーさんが、爆笑しながら手術室に向かうシーンを取り上げていらしたが、確かにそこはひとつの作品的山場で私にとっても忘れられないものとなった。
そしてそのシーンで西加奈子は自分を自分のものとして取り戻す。
私はボニータではない。
私は花子ではないし私はマイケルではないし私はアストリッドではない。
私を私として認識するには、〇〇ではない、☓☓ではない、他者との比較、他者との線引きが必要なのだ。
それは土地に国境を引き時に分断や対立や争いや憎しみを生む壁となると同時に、自分を自分として確立するために不可欠なもの。
絶対に超えられない、共有できない、理解できないものを、この肉体がある限り私たちは内包している。
西加奈子の核は、書かずにはいられない、作家としての存在なのではないかなあと今作を読んで思ってしまった。
いつか彼女が亡くなり、その肉体が消滅しても、その核は彼女の作品のなかに生き続けるのだ。それが作家であるということなんだろう。
ひとことでは纏められない、様々な思いが湧き上がってきてそれが落ち着くことがない。
作中多くの文学作品の引用が出てきて、読みたい本がまた増えました。
そして西加奈子がこれから何を書くのか、待ち続けたいと思います。
私たちには西加奈子がいる!そう思える同世代の作家が、今生きていてくれて本当に良かったと思う。


