
渡辺洋介
@yskw0514
2025年3月5日

対馬の海に沈む
窪田新之助
読み終わった
「対馬の海に沈む」
窪田新之助著
集英社
各種書評やフォロワーさんのポストを見てこれは読むべきと思ったのだが時すでに遅し、店頭からは在庫が消えていた年末年始を経て待望の重版出来。
本は読みたいと思った時に手に入れるべき。
そして重版の部数とタイミングはとても難しく、ある意味ギャンブル。
刷ったはいいが急に動きが止まり(出版業あるある)市場在庫がダブつくと容赦ない返品の嵐が出版社を襲い、初版の利益が飛んでしまうこともある
もとい、本書は前評判に劣らない傑作
雑なスキームの不正請求にザルにもほどがある審査
そこに同調圧力のムラ社会が結びついて不正が不正を呼ぶ地獄の錬金術。
もちろん、それに異を唱える者は排除されるという死ぬほど見た光景。
ヤンキー気質のお調子者職員に組織ぐるみで乗っかり、さらに契約者もその構図で甘い蜜を吸い
すべてが破綻したとたんに死人に口なしとばかりに素知らぬ顔で元の生活に戻っていくという恐怖。登場人物全員悪人では全くないが普通の人々が持つ底知れぬ欲望の沼に沈められた読後感だ。
2025年現在もそれらの人々が何事もなかったかのように日常生活を送っているのだ。
「痛快だったのは、その棚という棚が、フィギュアでびっしりと埋め尽くされていたからだ<中略>
漫画『ONE PIECE』に登場する主要人物たちであるフィギュアの数は、映っている場所の分だけでも100体を下らないだろう。その陳列棚に並ぶフィギュアを、スーツ姿の一人の中年男が眺めている。<中略>さらに映像は次の場面に移り、ある棚だけを大きく映し出した。そこには、片足を上げて走っているような恰好をした主人公ルフィのフィギアが何体も並んでいる。」p.106
何十億にも及ぶ不正請求をしながら、いい年をした大人が集めたのが漫画キャラクターのフィギュア収集だったところがまさに安物ニッポンの幼児性を象徴しているようでとことん情けなくなるのだ。