
乖離
@karu
2026年4月30日
カフネ
阿部暁子
読み終わった
不妊治療がうまくいかず、離婚さらには愛する弟を突然喪い失意の底にいた薫子。無愛想な弟の恋人せつなの料理を機に生活を立て直した薫子は、家事代行サービス「カフネ」のボランティアに携わるようになる。「カフネ」を通して薫子は、自身の傷、いつも柔らかい笑顔を見せるばかりだった弟の姿、そしてせつなと向き合っていく。
p.67
「あなた・・・・・・魔法使いみたいね」
「かわいいこと言うんですね」
最初は反目しあっていた薫子とせつなが、次第に打ち解けていき、名前のつけがたい関係を紡いでいくさまが愛おしい。
p.111
「未来は暗いかもしれないけど、卵と牛乳と砂糖は、よっぽどのことがない限り世界から消えることはない。あなたは、あなたとお母さんのプリンを、自分の力でいつだって作れる」
そしてご飯がとても美味しそう。
自分の手で自分や誰かのために食事をつくれる力、今日眠る場所を居心地のよいものであることが、どれほどにかけがえのないものかと思う。
p.138
生まれてくることがいいことなのか私にはわからないし、子供本人に自分が育つ環境も選ばせずに、こんなにどんどん壊れていくような世界に何十年っていう人生を背負わせて生まれさせる。それは、すごく理不尽なことだと私は思います」
(中略)
「でも、薫子さんを見ていると思います。この人は、生きていくことには価値があると信じているんだなって。もしも子供を持ったら。その子を幸せにするために全力で闘うんだろうし、そんな人のところに生まれる子はもしかしたら、『生まれてきてよかった』と思うのかもしれない」
一応自立した生活ができるようになって、子どもを持つということが、少しずつ選択肢として現実味を帯びてきた。
定まらない未来への漠然とした不安や欲望。まだ充分に考えられていない中で、身につまされるような、少し希望を持ってしまうような。あんまりまとまってないですが今読んでよかったと思った。
と同時に、少し冷めた目で、亡くなった人の意思が朧げにも見えてきたり、離れていった人と誠実に対話出来たりするのは、これはフィクションだからで、現実には、亡くなった人の心を知ることは出来ないし、目の前にいる人の真意すら聞けないことも多いと思う。
それでも、できる限り口を開き、手を差し伸べたいと思ってしまうのが、人の性であればいいな、そうありたいなと思う小説だった。
最後に祈りのような一節を引用。
p.227
誰かが泣いている時、「助けたい」と願う気持ちは、誰もが持っていると私は思うのよ。そう信じてる。
(余談:たまたま同日読み終わった『火星の人』も、地球の何十億の人びとの「助けたい」という気持ちが火星に一人取り残された男を救った話だと言える。災禍の多い世界ですが、こうした善性が力を持つ世界を次の世代に残したいとか分不相応に壮大なことを思いました)


