鳴海 "長安のライチ" 2026年5月1日

鳴海
鳴海
@act9
2026年5月1日
長安のライチ
長安のライチ
池田智恵,
立原透耶,
馬伯庸
念願のマイホームを長安に得た主人公が嵌められたのは実現不可能な案件。長年可もなく不可もなく、ただこのまま出る杭ともならずにローンを返すためだけの人生を思い描いていたところに舞い込んだ任務。当初楽な仕事と思っていたのに嵌められた事に気づいた時には時遅し。なんと数ヶ月後には首と胴が離れる予定が立ってしまう。 中国の唐を舞台にした新鮮なライチを長安まで運ぶプロジェクト。唐でライチならいわずとも舞台に上がるべき役者は決まっている。しかし、そんな大物の影を感じつつも話はヒラ官吏の目線から下っ端の苦悩や切なさと共に語られて行く。実現不可能なプロジェクトを前にして家のローンと残されることになる家族を背水として最終カンギマリせざるをえなくなる主人公。その実現不可能さに対して不可能さを構成している要因を紐解き始めさせたのは、命と引き換えに守りたいものと長年ヒラで積み上げていた彼自身の経験値から来るところがプロジェクトXめいて先を読み進めてしまう。 試行錯誤と諦めと、そんな折に出会う人との縁と情の温かさ。官吏の職務遂行の前に捨てざるを得ない友との繋がりや権力による悪政と義憤からのカタルシスと中国官吏お仕事小説の山場が詰め込まれている。 余りにもライチにまつわるあれやこれやに主人公と一緒にのめり込み過ぎてしまうのは三国志を舞台にしたあの小説と同じで、近視眼的になったところを歴史的事象で不意打ちしてくれるのがたまらなく好きだった。 歴史に名を馳せる人物が作品に滑り込まされてくる分量が諄すぎず、しかしながら効果抜群で、このバランス感を読みたくて手に取ってしまう。
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