
ryo i
@immoue
2025年3月20日

世界99 上
村田沙耶香
読んでる
小説
12歳と14歳の章を読んだ。ひとりの少女がさまざまな共同体のなかで自身が傷つかずに済むように、女として世界に媚びることを学んでいくくだり。痴漢。いじめ。性的搾取。自殺。かなりしんどい描写がつづくが、これは彼女にとっては始まりにすぎないと予感させるのがもっときつい。「白鳥さんがあまりに私の望む通りの答えを返すので、私は、彼女も「人間ロボット」だったのではないか、と思った。その想像は私のこわばりを微かにやわらげた。」(72頁)「肌の表面に視線を滑らせ、口を開ける。黄色い歯が並んでいるのが見えた瞬間、見えない暴力がお兄さんの中で蠢いているのを感じ取った。あ、私を傷付けるためだけに言葉を発しようとしている、と瞬間的に察知した。」(86頁)「私は思わず笑ってしまった。私達はこの瞬間、全員がそれぞれの世界に媚びていた。この騒ぎを機に教室での立場をマシにしようとする子、気がつかないふりをする子、困った顔で男子にも女子にも悪く思われないようにする子。これは世界に媚びるための祭りなのだった。媚びている「世界」が人によってすこし違うというだけで。」(101頁)。ピョコルン、ラロロリン人、クリーンタウン。この小説のSFめいた世界観が、やや行き過ぎたカリカチュアの描写に妥当性をあたえている。ここに書かれているのはわたしたちのよく知っている日本社会の病理そのものだという感覚を追認しては寒気が走る。戯画化されているとはいえ、上に引いたような何でもない微細な描写の数々に、作家の底知れぬ恐ろしさが見え隠れする。さきの箇所にもあったが、母の歯間に挟まってるハンバーグとか、ちょっとした口部をめぐる描写が異様にグロテスクで頭に残る。さて、この少女はこれからどんな大人になるのだろう。
