
読谷 文
@fumi_yomitani
2026年5月4日
アニータの夫
坂本泰紀
読み終わった
まず装丁がすごくお洒落で、目を惹く。
南米を思わせる力強いアニータの顔の絵に比して、タイトル・著者名がシンプルで強めなゴシック体で配置されている。
他には何にもない。
なんて潔い表紙なんだ。
真四角に配置された帯の文字は、アニメのルパン三世のタイトルみたいに、タイプライターの打鍵音が聞こえてきそうだ。
本文を読むに、千田はなぜ横領に手を染めたのか?
二度の離婚歴があり自身の家庭がなく、職場では天下り役人が幅を利かせていて出世は望めない。通っていた将棋道場も、賭け将棋をしたことによりやめてしまう。
そんな虚しい日々を送る中でスナック通いを始めて、消費者金融への借金返済が横領のスタートだったそうだ。
成果を上げても報酬に直結しないことが多い公的職員の報われなさゆえの横領は、実はあるあるだと聞くが、千田の場合はそれだけでもなさそうである。
金や物を与えないと愛を得られないと本気で信じていたようだし、あくまで虚構を誇張している歌謡曲の世界観を、現実の世界も同じだと真に受けている節がある。
千田によるモノローグは妙に自己憐憫まみれで臭すぎるし、アニータに宛てた手紙の文面も謎に上から目線で偉そうで、気持ちが悪くて仕方がない。
筆者曰く「千田は物事のコツを掴む特異な才能がある」とのことで、それゆえに複雑怪奇な公社の会計から莫大な額の横領を成し得たのであるが、人間の心の機微についてはまるで何もわかっていないように思う。
自分でも世間知らずという自覚はあったようだが、アニータから明らかにATM扱いされていて、度重なる金の催促に酒を飲まないと寝られないくらい悩まされていたにもかかわらず11億も与え続けたのは、盗んだ金を貧しい人々に配って回る石川五右衛門気取りの、薄っぺらい自己満足にすぎない。
千田は、公務員で釣りや山菜採りに長けていた父親を尊敬していたようだが、自分自身の人生の虚しさを自らの手ではどうすることもできずに、横領した金で実現しようとしていたように見えた。
(追記)
余談になるが、ここだけの話、本書読了後にメルカリで出品したら青森の方が買ってくだすって、余計に味わい深かった。
やはり読者の中には青森県の方が多いのかしら……?


