ひかりとかげ "1984" 2026年5月9日

1984
1984
ジョージ・オーウェル,
田内志文
小説のつもりで読み始めたが、読み終えたときには、これは物語というより、全体主義国家がどのように国民を洗脳し、個性や連帯を破壊し、監視と服従の体系へ組み込んでいくかを記した専門書のように感じた。 ビッグ・ブラザーという絶対的存在。 「イングソック」と名づけられた思想体系。 語彙を絞り、思考そのものを狭める「ニュースピーク」。 矛盾を矛盾のまま受け入れさせ、過去の改変にすら疑問を抱かせなくする「二重思考」。 特に恐ろしかったのは、その支配が子供たちの教育にまで及び、家族という最小単位の連帯を破壊していくことだった。子供は党に絶対忠誠を尽くす駒として育てられ、実の親でさえ疑い、通報する存在になる。そこには、国家が家庭を越えて人間の内面を占領していく過程が描かれていた。 この小説に続きはない。 だが、続きはある。 それ自体が二重思考的な言い回しだと分かっている。それでも、そう言いたくなるほど、ビッグ・ブラザーの支配体系には絶望的なまでに綻びがない。そして、スマホやSNSの発展、AI技術の進歩、ディープフェイクが巧妙になった現在が、この『1984年』のプロローグのように感じられてしまう。 「過去を支配する者は未来を支配する。 現在を支配する者は過去を支配する。」 オブライエンの言葉が、冷たい床に打ちつけられるブーツの音のように近づいてくる。
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