
読書猫
@bookcat
2026年5月4日
灯台守の話
ジャネット・ウィンターソン,
岸本佐知子
読み終わった
(本文抜粋)
”ソルツ。それがわたしのふるさとだ。海になぶられ、岩に噛まれ、砂に研がれた貝殻みたいな町。そう、それと、灯台と。“
”「どうしていっつも一つのお話をするのに、べつのお話を始めるの?」
「そりゃあ、何もないところからひょっこり始まる話なんか一つもないからさ。親のいないところに子が生まれないのとおんなじだ」
「あたしは父さんなしで生まれたよ」
「そして今じゃ母さんもなしってわけだ」
わたしは泣きだし、それを聞いてピューは悪いことを言ったと思ったのだろう。わたしの顔に触れて、涙をそっとなぞった。
「それもまた一つの話だ。自分を物語のように話せば、それもそんなに悪いことではなくなる」“
“誰かの元を去って、なおかつ共にいることはできるだろうか? できる、と彼女は思った。彼女にはわかっていた。今日これからどんなことが起ころうと、二人がどんな決断を下そうと、自分が彼を失うことになろうとなるまいと、そんなことはもうどうだっていいことなのだと。まるで芝居か小説の中の登場人物になったような気持ちだった。それは一つの物語だった。”
“人生が途切れ目なくつながった筋書きで語れるなんて、そんなのはまやかしだ。途切れ目なくつながった筋書きなんてありはしない。あるのは光に照らされた瞬間瞬間だけ、残りは闇の中だ。”
“わたしの体は、ジャコウネコと家猫でできている。
この野性の心と人恋しい心のあいだで、どう折り合いをつければいいだろう? 野性の心は自由を求め、人恋しい心は家にかえりたがる。ぎゅっと抱きしめてほしい。(あまり近くに寄らないで。)夜になったらわたしを抱きあげて家に連れてかえって。(誰にも居場所を知られたくない。)誰にも見つからない岩のすき間に隠れていたい。(あなたといっしょにいたい。)”
