
No.310
@__310__
2026年5月11日
北朝鮮に出勤します
キム・ミンジュ,
岡裕美
読み終わった
韓国人である著者が、北朝鮮の開城工業団地で働いた日々を振り返るエッセイ。
冒頭にも記述があるが開城工業団地は既に閉鎖されており、今はもう存在しない場所の記憶を著者の案内で辿るような気持ちでページをめくった。
食べ物をめぐるエピソードが印象的だった。
キンパを一緒に作って全員で試食する場面、南北でキムチを交換する場面。
国境や思想、制度を超えたところで人と人が繋がる瞬間が、静かな温かさを持って訪れる。
一方で、給与計算のミスを指摘された職員がその後姿を見せなくなった話、職員に何かしてあげたくてもそれが逆にその人を危険に晒すかもしれないという著者の葛藤、仲良くなった同い年の職員が「教育」の対象になってしまった話などは、読んでいて胸が痛んだ。
善意が裏目に出てしまう構造の中で、それでも分かり合おうとした記録として、心に残る一冊だった。
