
bluebird
@Reads_0229
2026年5月11日
生を祝う
李琴峰
読み終わった
「生まれてからでは遅いんだよ。人生という名の無期懲役になる。」(p.96)
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切実な生きづらさに苦しむ人々は一定数存在する。「生まれてきたくはなかった」という彼らの痛切な思いをどのように尊重すればいいのか。その答えが、母親に堕胎を強制するという本書の世界。
宿した子供を産みたいという母親の自然な欲求を抑え込むことは酷い仕打ちにも思えるが、本書ではこの無垢な欲求を「産意」と呼び、「殺意」と同様に暴力的で抑制すべきものとしている。他者である胎児に影響を及ぼす出産行為について、一方当事者である親の意思のみが尊重される現状はむしろ不自然である、という理屈は腑に落ちるものだった。
胎児の生存についての自己決定権の根拠が、生存難易度という1から10までの単なる数字でしかない、という点に多少の無理くり感を感じざるを得ないが、逆に言えば、そのような薄弱な根拠に基づいてでも胎児の決定権は認められるべきであって、それほどまでに人間の自己決定権というのは重要だというメッセージだとも受け取れる。
生きることを選択することは素晴らしい。死ぬことを選択することもまた同様に素晴らしい。「意思決定において自由であること」、それは人間の根幹を成すものであることを再認識できた本だった。
ちなみに、胎児の出生意思を確認する技術の根拠として、チョムスキーが提唱した普遍文法が挙げられている点は、併読していた『会話の0.2秒を言語学する』と重なるもので大変面白かった。


