chika "自然のものはただ育つ" 2026年5月12日

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@koitoya
2026年5月12日
自然のものはただ育つ
自然のものはただ育つ
イーユン・リー,
篠森ゆりこ
二人の息子を自死で失った作家のエッセイ。2026年ピューリッツァー賞を受賞した。 私は親友を亡くした経験と重ね合わせながら読んだ。 「子どもが死んだ後に母親が本を書いたら、結果的にその本を通じて子どもへの注目を求めることになりかねない。でもジェームズは注目とは対極にある人、とブリジッドは言った。ジェームズのために書くのは不可能に近いでしょうね。(中略)それでも、私には昔からなじんでいるこの言語しかないのだから、新しい文字といってもそれは象徴的な話にすぎない。破滅的なことが起こると、言葉は軟弱に見えたり陳腐に見えたりしがちだが、子どもを二人失うという極限状態に生きねばならない人間にとっては、言語の力が足りないことなどささいな不運にすぎない。 言葉もございません。言葉では言い尽くせません。 この二つの陳腐な決まり文句は反論しがたい真実を語っている。つまりジェームズのために何を書いても、部分的には失敗に終わる運命だ。」(p17-18) と述べる。それでもなお書くしかない。どんな言葉も息子の本質からずれてしまうと理解しながら、それでも問い続ける。その態度が印象的だった。 また著者は、 「それでもなお人生を生きねばならない。悲劇の中でも、悲劇の外でも、悲劇があっても」(p30) と書く。喪失が人生を完全に停止させるわけではなく、世界はその後も続いていく。その感覚は残酷でもあり、現実でもある。 特に印象に残ったのは、ヴィンセントの死を予感しながら生きていたという記述だった。 「現実にも非現実にも直面する母親は、直感を寄せつけないようにしながらも、同時に直感に頼るしかない。 直感とは物語だ。私は物語というものを根本的に信用していない。物語は人生の何よりも人を惑わせるものだ。物語に救われた人生も、物語に狂わされた人生も見たことがある。(中略) 直感は油断ならない物語群である。未完成で完成不可能。私は直感を言葉にするのは避けている。それは蝶を確かに所有していると主張するために、標本箱に虫ピンで留めるようなことだろう。」(p50) と語る。未来の破滅を感じながら、それを言葉にして確定させることを避ける感覚。私も、親友がいなくなってしまう気がして、何度も確認したことがあるのでよくわかった。 本書で興味深かったのは、「怒り」が中心になっていない点である。精神科医から怒りの有無を繰り返し尋ねられた著者は、 「怒りという感情は、私の人生の中で大きな存在どころか小さな存在ですらない」(p59) と答える。私自身も、彼女の死によって「人生がめちゃくちゃになった」という感覚はあっても、それを「怒り」とは呼べない気がする。怒りによって世界を整理することができないのだ。 さらに興味深かったのは、 「愛より大事なのは子どもたちを理解し尊重することだ。(中略)命を絶つという選択を理解し尊重することも含まれる」(p55) という言葉だった。自死を「理解し尊重する」という考え方に、私はこれまで出会ったことがなかった。完全には理解できないがなんだか風通しの良さを感じた。 「もしかするとその六年と四か月の間、彼が生きていたのはいま、次、後、ずっと先ではなく、いま、いま、いま、いまだったかもしれない。極みであり、奈落の底であり、私が彼を愛しても変えられなかった状態。」(p124-125) という箇所も印象深い。「後」があるから人は耐えられる。しかし「いま」だけが閉じた空間のように続く状態は確かに存在すると思った。 終盤の、 「足踏みする行為は何でも生者の世界のものだ。死者はどこにも行かない」(p139) という言葉も強く残った。私は親友の墓へまだ行けていない。「もう少しまともな人間になれたら行こう」と思い続けている。しかし変わろうとし、資格を測り続けているのは生者の側だけである。 そして著者は 「芸術には携わる価値があり、科学には探究する価値があり、正義には追い求める価値がある。 同じように人生には、突き詰めれば生きる価値がある。しかし、やる価値があるからといって必ずしもそれをやる力が与えられていることにはならないし、やる力があってもそれを失わずにいられることにもならない。やる価値があることとやれることには隔たりがあり、その隔たりこそ若者に野心が宿り、老人に衰えが待ち構えているところなのだ。」(p152) と書く。人生には価値がある。それでも、生き続ける力を失ってしまうことはある。そのどうしようもなさを、この本は否定もしないし、無理に救おうともしない。 本書には解決法も救済も提示されない。ただ、著者に届いた数多くの手紙の中で、「言葉にならないけれど伝えようとしたもの」が確かに存在したと書かれている。私もまた、この本から同じものを感じた。
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