
とろん
@toron0503
2026年5月10日
ギリシャ語の時間
ハン・ガン,
斎藤真理子
読み終わった
『別れを告げない』が非常に良かったのでこちらも読んでみた。とても良かった。
一時的に発語することができなくなった女性と、遺伝疾患によってゆっくりと眼の見えなくなってゆく男性が古代ギリシャ語の勉強を通じて出会う…と書くとどうしても「余命モノ」っぽさが出てしまうのだけど、これは互いの存在が支えになる、という展開ではなく、それぞれはそれぞれの問題として変わらず。
そして男性と女性を取り巻く酷い境遇が変わった訳ではないのだけれど、希望が持てる終わり方になっていたとも思う。ハン・ガンの現在と過去、現実と幻想が入り混じる描き方も功を奏していたと思う。
女性は言葉で規定された世界(と解説には書かれているが「ハングルで規定された世界」なのかもしれない。別の言語を学んで世界を取り戻そうとしているので)に幼い頃から順応できなかった。これは、言葉にすると取りこぼしてしまうものに対して過剰に意識を向けているからなのかな、とも思ったりした。
この女性はある意味では極端だったりするのだろうけれど、例えば言語化して本当に言いたかったことと少しずれたり、却って意味を固定してしまったりすることがある。
それ自体は言葉という特性上仕方のないことだし、そうしないと「伝える」ということがそもそも難しくなるわけだけれど、確かに違和感はある。
でも勿論、伝えなければいけないので完璧に意味に沿う言葉を探す方をあきらめる。女性は逆に、伝える方をあきらめて、言葉を探すことに粘っている…そういう意味で、女性は世界に、自分の思っている感情をそのまま言語化できるような言語に、まだ期待しているようでもあった。本書のテーマとはややずれるのかもしれないけれど、そういうことも感じられた。

