紫嶋 "紙の動物園" 2026年5月13日

紫嶋
紫嶋
@09sjm
2026年5月13日
紙の動物園
紙の動物園
ケン・リュウ,
古沢嘉通
氏の出世作を含む全17編の短編集。ボリュームたっぷりで、読み応えと満足感が素晴らしく、ページ紙のセピアカラーの色合いもたまらない。紙の本で是非読んでほしい一冊。 全体のジャンルとしてはSFで、いくつかはほんのりファンタジーであったりヒューマンドラマであったり。自由で柔軟な無限の広がりを感じる発想と、人の心理の繊細な描写が光る。 作者の生まれと文化のルーツである中国や、周辺の日本を含む東アジアの描写、価値観、宗教観などを積極的に取り込んだ作風は、不思議な心地よさや馴染み深さ、ノスタルジーのようなものすら感じた。 時には欧米人からアジア人に向けられる容赦ない差別の眼差しや、中国・台湾が戦時中に経験した苦しい歴史にも触れられており、そうした描写に日本人として胸が痛む。 ハリウッドで映画化されるような、欧米的SFとはどこかテイストの異なるSFに感じたのも、もしかすると作品の中にどこか香る東アジア的な考え方、価値観によるものなのかもしれない。 たとえば近未来的技術の果てに辿り着く境地はどこか悟りにも似て、人間の進化の先で新たな姿形へ変容する様子も輪廻転生を思わせる。 その中で迷い、葛藤し、後悔し、時に自己犠牲的な選択すら厭わない人の姿に惹かれた。 この一冊を読んだだけでも、作者の生み出す物語や世界観にグッと魅了された。 他の短編集も是非読んでみたいと思う。
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